第25話 間抜けな馬鹿共め!

 Bが抜けてから、BのかわりはHとなった。

「昨日の業務内容をまとめたものです。」

「はい、ありがと。」

「………あのぅ、それと今日の急ぎの報告があります。」

「えっ、……まぁ何?」

 こういう時って、良いことあった気がしないんだよねぇ……


「えっと……私は知らなかったんですけど、Aさんの部下にいる、攻撃隊?という人たちが文句ばかり言っていて働かないそうです。」

 攻撃隊?………ああ!ニューワールド日本支部のPRとして海外のニューワールドに送った時の動画に使った戦闘員、もとい捨て駒達のことか!

 忘れてた……確か、性根も腐ってたからAに叩きのめしてもらえばそれなりに使えると判断したが、ダメだったか……

「…そうか、それは私が対応する。」

「はい!かしこまりました!」

 ………どうしよ?










「あ!アイツだ!俺達をこんなところに閉じ込めたのは!」

「てめぇ!ふざけてんのか!?」

「俺には妻も子もいるんだぞ!?早く帰せや!」

「俺達の情報がサツに回ったってのは嘘なんじゃないだろうな!?」

 うっるさ。

 こいつらイキってるくせに、あの時の撤退命令を出す前に逃げてたからなぁ。本当に、第四部隊が懐かしすぎる。あいつらは唯一、私の言うことに素直に従ってくれてたのになぁ…………まぁ、逆に悪知恵が働いていたとも言えるか。

「まぁまぁ、落ち着きたまえ。君達が言いたいことは分かる。だが、確認したところ君達全員の罪は気付かれ、家に家宅捜索が入ったようだぞ?」

 私は懐から数十枚の写真を取り出し、周辺にばらまく。

「これは!?」

「あぁ!それ俺の家だ!」

「マジかよ……絶対バレないようにしてたのに……」


 フッフッフ、我らが告発したからなんだけどね!

 今回の作戦はこいつらに危機感を持たせ、従順にすることだ。こいつらは犯罪者のため、給料は国の最低賃金に設定してある。だが、世間では自分の犯罪がバレているとなれば、生きるためにニューワールドで働くことになるだろう。


「チッ!なら、最後に一暴れさせろ!ムシャクシャしてんだ!こっちは!」

「そうだ!こんな所で終わる俺じゃねぇ!」

 はい、待ってましたぁ、その言葉!

「そうか、なら残る者、戦う者、別れろ。残る者は引き続き…今後は真面目に働くこと。戦う者は私について来い。」

 フッフッフ、最近は破壊活動をしていなかったため、巷では壊滅したとか言われてたけど、それが嘘であると証明してやろう……今に見てろ!朝のニュースで意気揚々と嘘ついていたなんかの専門家ぁ!






 全部で三十九人。これが今回魔法少女倒されるニューワールド戦闘員である。

「うおぉ!!」

「これ、壊して良いんだな!?」

「へへへ、手頃な女はいるかなぁ?」

「結構田舎だし、家も古そうだし、サンドバッグぐらいしかいないだろ。」

 目隠しして転移ポータル使ったけど、見るや否や品定めか。腐ってるなぁ。

 この村は限界集落で廃墟となってしまった土地をニューワールドが買い取り、土木建築の新人練習として使用した場所だ。

「いや、見ろ!若い女がいるぞ!」

「ウッヒョォ!久し振りに楽しめそうだ!」

 因みに、ここの住民は全員、ニューワールドの劇団員だ。舞台公演もなかなかバカにならないし、そこからスカウトされてテレビに出演している人もいる。

 劇団員もこれからを担う新人に来てもらい、逃げる演技をしてもらう。身の危険を感じたら個人に持たせてある、小転移ポータルを使用して逃げるという形となる。

 というわけで、劇団員を率いる幹部。有能に来てもらったのだが、どこにいるか分からん。まぁ、謎が多いやつだし気にしない方が良いだろう。


「さあ、お前らよく聞け!ここが"今日の"獲物だ。今回はお前らだけでやってもらう。成功すれば幹部候補になれるかもなぁ?

 さあ!お前らの働き、見せてみろ!」

「「「「「うおぉぉ!!!!!!!」」」」」

 雄叫びを上げた攻撃隊(笑)は一目散に駆けていく。

 彼らにはそれっぽい鉄パイプとナイフを持たせておいた。武器が無いと文句を言われるのも面倒だしね。


 うわぁ…………振り切った奴らってあんなに凄いんだなぁ。全員躊躇うことなく鉄パイプを振り回して、家々を破壊していく。

「やっているな。」

「うお!?」

 後ろから声が聞こえたと思ったら有能がいた。彼?彼女?は転移ポータルを作る能力があるため、急に現れることがよくある。

「驚かせるなよ…………新人はどうだ?」

「……良い感じだ。誘ってくれて感謝する。次の主役を決めかねていたからな。」

「……?悲鳴とか逃げる演技が必要な舞台ってなんだ?」

「舞台で悲鳴は使わん。観客に迷惑になる可能性もあるからな。使いたいのは必死の表情とか体力を測るためだ。」

「あぁー、成る程?」

 まぁ、今回は捕まったら何されるか分からんからこそ、火事場の馬鹿力とかを見たいってことか?

 でも舞台でそこまでする?……まぁ、関わったこと無いし何も言わないでおこう。


 破壊活動から五分程。

「……そろそろ、良いか。」

「あぁ、大体把握できた。問題ない。」

 私は魔法少女への救援要請のための連絡をする。











ー魔法少女ロナー


 救援要請は岐阜にある山の村ね。確か、情報によるとどこかの会社の社員寮になってるんだっけ?この前友達と登山に行ったけど、そんな場所があるなんて知らなかったわ。…でも座標的に反対側だから知らないのも当然か。

 それより、早く行かないと。




「ここね。」

 破壊された家が目立つ。数人だけど、追いかけられている女性も見える。

 ポーチに入れていた約3cm程の石を空中にばら撒き、能力で操る。照準を合わせてニューワールドの戦闘員のこめかみにぶつける。

 目をこらすと下の戦闘員達が私に向けて指を指す。

 よし、これでなんとかあの人達は逃げられそうね。でも……この後どうしよう?五十個の石のうち、使ったのは三十九個。つまり三十九人…一人でも対処はできるけど、警戒するに越したことはないでしょう。

 戦闘員の大方が集まったタイミングで地面に足をつける。


「こいつが魔法少女か!」

「生で見るのは初めてだ!」

「へっへっへ、どんな声が聞けるか楽しみだなぁ?」

 うわぁ……ニューワールドの人達と戦うのは初めてだけど、こういう人達が多いのかなぁ?人相も悪いし怖いなぁ。

 ここら辺は石が多いから攻撃には困らないかな。

「えい!」

 付近の石をありったけ操り、戦闘員達に攻撃する。

「ぐわ!?」

「がぁ!?」

「生意気なガキが!」

「痛ってえなぁ!」

 無力化できたのは十三人。残りは二十六人…鉄パイプで防がれたし、素人ではなさそうね。

「やっちまえ!」

「戦果は山分けだぁ!」

「当たり前のことを言ってんじゃねぇぞ!アホが!」

 鉄パイプを振り回しながら戦闘員が走ってくる。

 もう一度、今度はさっきよりも少し大きい石を飛ばす。

「へ!効くかよ!」

「そこ!」

 鉄パイプが当たる寸前、私が指笛を鳴らし、飛ばした石を破裂させて拡散攻撃をする。

 これで、前にいた七人の目に石が当たり、当分は動けない。

 残り、十九人。前の七人を見て、むやみやたらの突撃は止められたみたい。そのタイミングでさっきの七人に石を当て、気絶させる。

「ち!どうするよ?」

「面倒なガキだ。」

 ここは……そうだ。

「大人が一人の少女に良いようにされてぇ、恥ずかしくないんですかぁ~?」

「ああ!?舐めやがって!」

「痛い目見せなきゃ分からねぇみたいだなぁ!?」

「俺達ニューワールドを怒らせたらどうなるか分からせてやるぜ!」

 掛かった!釣れたのは八人。………今!

 私は人差し指をクイッ、と空に向ける。

 それにより能力を発動させ、地面に転がっていた石を丁度、その八人の股関に思い切り当てる。

 これで、残りは十一人。そう思ったとき…

「きゃ!」

 顔を上げたら目の前にナイフがあった。間一髪避けることは出来たけど、こんな精度の良い投擲、普通の人が……いや、彼らはニューワールド。能力を持っていても不思議じゃない。

「アッハハ!昔から投げるのは得意だけど、まさかこんなに調子が良いなんて!ニューワールドの力は凄いなぁ!もっと欲しい!お前ら、俺にナイフを全部渡せ!俺が牽制するから、その間にお前らは一発かませ!」

 まずいわね……ナイフは全部で十本、数だけなら問題はないけど、肝心なのはタイミング。少しでもミスったら終わり……やってやろうじゃない!

「来なさい!私はこれでも殴り合いの方が得意なのよ!」

「その威勢、どこまで続くか見物だな!」

 隊列は三、四、三。上手く捌かないと。

「ふ、は!せい!」

「が!」

「へ!まだまだぁ!」

「クソが!」

 落とせたのは一人。…!ナイフが飛んできた。でも、これなら問題なく避けられそうね。

「ハァ、セヤァ!」

「がふ!?」

「ぐふ!」

「あっぶね!?」

「ち!」

 渾身の回し蹴りで落とせたのは二人。残りの二人もまだ来るみた…っ!

「うがぁ!?」

 一瞬、鈍い光が見えて、近い方の戦闘員の影に隠れるように身を屈めた瞬間、その戦闘員は倒れ込み、後頭部にはナイフが刺さっていた。

「あなた!仲間を!」

「チっ、外したか。」

 私の言葉を無視しながら手に持ったナイフの切れ味を自身の服で確かめている。

 これには他の戦闘員も文句があるのか、六人が憤りながら取り囲む。

 今のうちに、気絶していない人達を気絶させる。

「てめぇ!どういうつもりだ!」

「ハァー、うるせぇな。どうせやるなら命賭けろよ。雑魚どもが!おら!さっさと行け!サボってたら間違えてそいつの頭にナイフが当たっちまうかもなぁ?」

 そう言うとナイフをちらつかせ、他の六人は悔しそうな顔をしながら私に向かってきた。

 酷い……こんなこと、許させはしない!

 

 一人、一人、ナイフで狙う隙を与えないように動きながら無力化していく。

 あと四人……

「そこだ。」

 遠くにいるはずなのに、その人の声が聞こえた。

 あ。

 気付いたときにはすぐそこまでナイフが近付いていた。息を呑む。瞳孔が開く。

 着実にこなせたことによる安堵で、ナイフを投げる隙を与えてしまったみたい。

 ここで……死ぬの?………嫌だ。まだ、海に行ってない。せっかく友達と水着を買ったのに、着ないで終わるの?それにまだ、恋をして無い!

 私は友達と笑って、好きな人と結婚したい!




「っ!」

 カキン

 魔法少女ロナにナイフが刺さる。誰もがそう思っていた結末は、少女の平凡で"ささやかな願い"により、覆された。

 ナイフと少女の間の空間に平らな石のような物が、少女を守る壁のようにナイフを防いだ。

 五人が呆然とする中、少女は動いた。即座に周りの四人を蹴り技一つで無力化すると、走り出す。

「は!?…クソ!てめぇ、どこにそんな力ぁ!」

「終わり……」

 少女は拳を握り、捻るように右ストレートを叩き込む。

「がは!」



 

「フゥー…………

 あ、あれ?私…どうして?

 も、もしかしてこれ、私がやったの!?えぇぇえぇ?どうしよう、何も覚えてない!ナイフが目の前に来たと思ったら、全部終わってた、なんて、どう報告書に書けば良いのぉ!!」

 うぅ……とりあえず、戦闘員達を縛り上げよう。



 …これで全員だね。逃げ遅れた人もいないみたいだったし、一件落ちゃ……

「誰!そこにいるのは!」

 黒いローブと青いローブ?まさかニューワールドの!

「あ!待ちなさい!」

 私がそこに向かうと、もう何も残っていなかった。

「逃げられた……。」

 これも報告書に書かなきゃダメだよねぇ………

 あぁぁぁ………空が青いなぁ…………

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