第18話 solving a mystery

2049年 9月__

なんだかSORAは凄いな。

やっぱりあの時、兄貴が死んだ事には意味があったんだ。

あの日の兄貴が、僕とSORAを引き合わせた。

全てが予定通りの事だったかのように時が進んでいる。

SORAが珍しく声を掛けてくれた事も、それすらも運命だったのかもしれない。

絶対に僕らは出会うべくして出会った。

今から考えると、全ての点が線になっていく感じだ。

これって本当に凄い事だ・・・。


それにしても、SORAのお父さんのあの「聖地」、いったいどうやってその時代に監視電波が届かない様に出来たんだろう。しかも未だにその場所だけが、無法地帯のようにそのままの状態で残っているなんて。日本も少子化により高齢化が進み、それらが要因となって人口減少もかなり進んでいる。それが原因かは分からないが、人間の身分格差だけでなく、色んな事に対して格差が出てきた。建物にしても手付かずのまま、昔ながらの状態で残されているビルも沢山ある。でも、あの「聖地」のように廃墟となったビルは他にも沢山あるけど、電波が届かない場所って、多分あそこだけだろうな。いくら古いからと言っても、電波が届かないなんて事は有り得ないからだ。

いや、間違いなくあそこだけだよな。


そう言えば、SORAが話していたな。

お父さんが家で色んな機械を作っていたって。

それもお父さんが亡くなる前には、全てが家から無くなっていたとか。

それが不思議でたまらない。一体何を作って、何処に持って行ったんだろう。

そして、その機械に何かヒントがあるんじゃないか・・・。

もし、それがまだ何処かにあるとしたら、そして万が一、日本を変えるのに役立つものだとしたら・・・。絶対に見つけたい。なんとか探せないものだろうか・・・?

本当にSORAは、お父さんから他には何にも聞かされていないのかな・・・。


Rayの頭の中はお父さんとSORAの事で頭が一杯になっていた。

SORA自信が持っている能力に感動すると共に、その能力はお父さんから間違いなく引き継がれているとしたら・・・。絶対に想像を超えるだけの能力になっている。

そして、その二人を絶対的に結ぶ所に、何か新しいヒントがあるのでは?と考えずにはいられなかった。SORAとお父さんをずっと繋いでいるもの・・・。


「SORAのお父さんが最後に残した言葉に秘密が隠されている・・・。」


実はRayは飛び切り謎解きが得意だと自分でも自負している。

そして、一度見た事は二度と忘れないという特殊能力も持ち合わせている。


SORAがお父さんのやろうとした事を確実に引き継いでいるとする・・・そして、お父さんのDNAがSORAの体を構成しているとすれば・・・。


___SORAとお父さん・・・。やっぱりそうだ。___


「聖地、あそこしかないよね・・・。結びつける場所って・・・。でもあの場所にそんなに怪しい所は無かったと思うけど、もう一度見てみたい。きちんとこの目で。」


兄貴を失った以上に、SORAとの出会いがRayを覚醒させている。

そうだ、僕の得意な事は・・・誰もが考えもしない事を見つけ出す事だ。きっとあるはず。あの「聖地」には。


___二人を今でも長い年月を超えて結び続けているもの、そして政府に対抗出来るくらいのお父さんからの大きな贈り物が____


その後、SORAにコンタクトを取り、あの聖地で調べたい事があるんだと伝えてみたが、あいにくSORAはごみ処理のアルバイトで行けないようだった。SORAに一人であの場所に行く事に関してとりあえず許可を取り、今回はあの「聖地」に一人で行く事にした。そう一刻も早く確認したかったからだ。


実は他にも気になる事がもう一つあった。その事について、前もってあの場所に行く事をDAMIAにも知らせておいた。それは、僕や他の人の電波でもあの場所では届かないかどうかを実験したかったからだ。もしかしたらSORAだけが許されている「聖地」なのかもしれない。

同じくDAMIAも僕と同じ事を疑問に思っていたらしい。話は早かった。

お互いの連絡手段にはIDブレスを通してするしか方法がない為、前もって僕とDAMIAは暗号のようなものを決めておいた。

そのビルの所在地をDAMIAに伝え、僕からの信号が届いている時には(元気かな?)と送ってもらう事に。そして僕に届いていた場合の返事は(元気だよ!)

万が一信号が途絶えたら(元気出して!)と送ってもらう。

そしてその(元気出して!)が僕のIDブレスでキャッチ出来なかったり、DAMIAが送れなかったら電波が届かないという事が明白になる。

そして最後に何も収穫がなかった時は、僕から(げっそりだよ)と送り、収穫ありの時は(すごく元気だよ!)と送る事にした。

これなら政府がその通信を傍受しても、絶対に反政府的な事をしている様には思われない。我ながら素晴らしい案だと思ったが、DAMIAからは「了解」だけの冷たい反応だった。


とにかくまずは、この場所が本当の「聖地」かどうかを試さないと、「聖地」が「聖地」でなくなる。

もしかしたら、SORAだけにお父さんが与えたものかもしれないし・・・そんな訳で、僕はその場所が今後も、僕らにとって優位な場所になるかというのを見極める為にも、調べずにはいられなかった。


____


僕のIDブレスが反応した・・・(元気かな?)

すかさず返事をする…(元気だよ!)


そして、その聖地手前の5メートル付近でお互いの連絡が途絶えた。

やっぱりこの場所は、全ての電波を捉えられない特別な場所なんだ。

すごい!やっぱりSORAのお父さんは凄すぎる。こんなに月日が経ってもこんな場所を残しておけるなんて。SORAに想いを託したんだ・・・きっとそうだ。

そんな気持ちを抱きながらビルに入り屋上へと向かった。


_____


15階建てのビルの屋上に階段を使ってやっとの思いで登りきると、少し息が荒くなっている自分がいる。元々体力には自信がない。

そりゃそうだ。この暑さの中、この装備で呼吸も儘ならない。


「よし、着いた。この間も来たけど、本当に平凡な屋上なんだよね・・・。」

でも、お父さんがここをSORAに最後に教えたとすれば、そして永遠に電波をシャットアウトしたとすると・・・きっと何か・・・。

と、色んな事を考えながら、まずは屋上を歩きながら大雑把に観察してみる事に。

その屋上は勾配がなく、平らに作られていて屋上全体はパラペットで囲まれている。

その床部のコンクリート部分には、所々ひび割れが見られるものの、特に気になる所は無いようだ。囲いになっているパラペットの上部は、金属の「笠木」が天板からの防水効果を高める為にパラキャップが施されている。パラキャップも経年劣化によりかなり錆び付いている。パッと見は、あまり気になる所が無いようだ。

やはり僕の勘違いなのか?と思ったが細かく見てみるんだ!カンを信じろ!

と自分に言い聞かせ、今度は全体をゆっくりと観察する事に。

まずは床から。床のコンクリート部分に、何か繋ぎ目やら他にもヒントになるようなモノが無いかどうかを細心の注意を払って見て回る。

うーん、無茶苦茶汚れてはいるけど特に変わったような所もないな・・・。

ひび割れ部分も普通にひびが入っているだけ。

この床じゃ、何も隠しようがないもんな。勿論、SORAのお父さんが亡くなった時、政府もそれなりに捜索はしているだろうし。政府でも何も見つけられなかったんだから、何かがあるとしても簡単に見つけられる訳がない。

気持ちを切り替えて、今度はパラペットを上から下まで隈なく見る事に・・・。

何処も彼処も同じにしか見えない・・・。長い年月放置してあったから、その汚れと錆の凄さにとにかく汚いとしか言いようがない状況だ。


「ん??・・・ここだけなんだか・・・随分と汚れがひどいな。」

僕はパラペット上部のパラキャップ部分にこびり付いている汚れを、持ってきていた雑巾で拭いてみた・・・が、なかなか汚れが取れない・・・。思い違いかな・・・。

暫くさらに擦ってみる。

「ん?え?・・・なんか細い切れ目があるぞ。なんだこれ?」

僕はひたすらその切れ目部分を、持ってきた太めのカッターで削り始めた。

硬いな、これ、なかなか削れないぞ・・・あともう少し・・。

どのくらいの時間削っていたか分からないが、ある部分にカッターの刃が辿り着いた時、少しだけパラキャップの繋ぎ目みたいな所が浮いてきた。

「え?浮いた?これ開くの!!もしかして!」

今度は持ってきた細めのマイナスドライバーを間に差し込んで、浮いてきた部分をゆっくりと捲り上げてみた。

「あ、開いた!!なんだこれ!中が細長い空洞になっているぞ!しかも機械みたいのが入っている!凄いぞ!やっぱりお父さんはSORAに何かを託していたんだ!」

思わずお父さんの「願い」を見付けたような気がして声が出てしまった。


その後、僕は誰にも気付かれないように元の様に戻してビルを後にした。


DAMIAには勿論、「すごく元気だよ!」と送っておいた。


____


「聖地」からの帰り道、僕はSORAにお父さんの「秘密の機械」の事を話すために連絡を取った。勿論、その時はただ(会えないかな?)の連絡だけをした。

とにかく政府の傍受は絶対的に気を付けないといけない・・・。

きっとSORAも驚くはずだ。そして、その機械をSORAとDAMIAに見せたら何か分かるかもしれない。

帰る道中、僕の心は久し振りに満たされていた。なんだか、自分も仲間の役に立てているような気がした。兄貴の時もそうだったが、自分だけが何にも出来てないかも、という気持ちになっていたから尚更だ。


やっぱりこの場所は「聖地」だった。SORAのお父さん、有難うございます。

お父さんの想いを形に出来るかもしれません、と、空を見上げながらSORAのお父さんに伝えていた。

お父さんとSORAはずっと繋がっていたんだ。そして想いまでも。

気持ちが高揚しているせいか、久し振りに足取りが軽い。

早く伝えたい・・・二人に。



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