第27話

 三日に及ぶお祭りの巡回を終え、わたしと天宮さんは教会堂に戻ってきた。その足で天宮さんはコンビニに行くと、何かを買って戻ってきた。


「彩羽さん、買ってきましたよ。花火。お祭りの打ち上げ花火みたいに派手にはいきませんが、ぼくたちも楽しみましょう」


 お祭りの打ち上げ花火は遠くからしか観ることができなかった。私がよほど残念そうな顔をしていたのだろう、天宮さんが気遣って手持ちの花火を買ってきてくれたようだ。


「わぁ、これも花火なんですね。どうやって楽しめばいいのですか?」


「ぼくがお手本見せましょう。こうやって手に持って、先端に火をつけると……ほら」


 私たちは教会堂の庭に出て、バケツに水を準備し、天宮さんが花火の遊び方を私に教えてくれた。火をつけると少したってぱちぱちと火花が飛びはじめた。


「わっ!すごーい!私も私も!」


 私は天宮さんの見様見真似で手持ち花火に火を付けた。しゅわしゅわと火花が散り始める。


「暗いなかだと綺麗ですよね。ほら、こう少し振るともうちょっと楽しいですよ」


「ほんとだ!きれーい!」


 私は少し興奮して花火をぶんぶん振り回した。火は消えることなく、あたりを照らし続けた。


 いくつか花火を楽しんだあと、天宮さんは最後の手持ち花火を二本取り出し、私に一本渡してくれた。


「これは線香花火といって、手でぶら下げて楽しむんです。小さいですが綺麗ですよ」


 そう言って天宮さんはしゃがんで自分の線香花火に火を付けた。私もそれにならってしゃがんで火をつけてもらった。


 ほんのちいさな火花が音もなく散り始める。花火が二人の顔を下からわずかに照らしてくれる。


「私が悪霊を説得できなかったのは、どうしても心残りです……」


「昨日も言いましたが、ぼくたちは以前よりずっと人助けをできるようになりました。まずは、それを喜びませんか?」


「……そうですね。昨日より今日、今日より明日より成長できていたら、いつかきっと理想の私たちになれますよね……」


「ぼくたちはパートナー、ですからね」


 パートナー、と言われるたび、私のこころはほのかに暖かくなる。まだ一緒に居られる、それだけでとても嬉しく感じる。


「なにせ、天宮さんは私の翼ですからね!」


 私は少しいたずらっぽくそう言った。


「そ、その言葉は、あの、勢いというか、恥ずかしいというか、一度忘れてください……」


「やーでーす!絶対に忘れません!」


 私はそうやってはしゃぎ、天宮さんは照れくさそうだ。その言葉、忘れてなるものか。そんな言葉、初めてもらえた。共に居る、という言葉がとても心地よかった。言葉だけではなく、態度でも示してもらえた。こんなに素敵なことが私の身におこるなんて、考えたこともなかった。


 気がかりなこともある。私は天宮さんにもらってばかりだ。料理やお手伝いなんかはしているけれど、その程度だ。あまりに釣り合っていない。


 だから、私も天宮さんに何かかえしてあげたい。それが何になるかはまだわからないけれど、それで天宮さんにも心地よく素敵な気持ちになってもらいたい。


 そして、二人で幸せになりたい。


 私だけでもなく、天宮さんだけでもなく、二人で。私たちならきっとできる。残り5センチの距離もきっとゼロにできる。残り僅かになった線香花火の火を見つめながら、私はそう思った。


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駄天使ちゃんは近づきたい た〜にゃ @rizkubo

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