第3話

「もうそろそろお昼ですね。せっかくですし、お昼ご飯を食べていきますか?簡単なものでしたら作りますよ」


「えっ、い、いいんですか……それでは、お言葉に甘えて……ふひ……」


「はい、それでは、そのまま少々お待ち下さい。ペペロンチーノでいいですか?」


「だっ大丈夫です。よろしくお願いします」


 そう言うと天使様はペコリと頭を下げた。


 ぼくは台所に立ち、パスタを茹で始めた。並行してにんにくを切り赤唐辛子と一緒にオリーブオイルで炒める。茹で上がったパスタをフライパンにぶっこんでなじませておわり。一応食える、というレベルのもので、味に保証はなにもない。ちょっと見栄を張りたかったが、料理が不得意だから仕方がない。


 出来上がったペペロンチーノをお皿に盛り、天使様の待つテーブルへ持っていった。ついでにコップに水も。先程と同じようにダイニングテーブルの対面に座る。


「できましたよ」


「す、すごく手際がいいですね……びっくりしました……」


「いえいえ、味のほうはかなり適当なのでご了承ください。では、いただきます」


「い、いただきます……あ、おいしい……」


「それは良かったです」


 そう言ってぼくも昼食を食べ始めた。しばらくお互い無言でペペロンチーノを食べる。まぁ、一応食べられるな、一応……我流なので正直この調理法で良いかどうかもよくわからない……


「ふぅ、ご、ごちそうさまでした」


「お粗末様でした。コーヒー飲みますか?インスタントですが」


「は、はい、お願いします」


 また台所に立ち、適当にお湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れる。安い味だが飲めれば何でもいい。


 ふと見ると、天使様がじっとこちらを見ている。目が合うと、えへへ、と笑いかけられた。なんだかんだで年相応のかわいいところがある。


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 そう言うと天使様はカップを持ち、ズズッとコーヒーをすすった。お行儀……


 そして天使様は一息つくと、じっとこちらを見つめてきた。


「……何かありました?」


「い、いえ、話には聞いてましたが、本当に近くに座れるんだなぁ、って」


「ああ、そのことですか。珍しい体質ですよね。なんで近づけるのかよく分かってないそうです」


「わ、私たち天使の間でもよくわかっていないようです。ど、どのくらいまで近づけるんですか?」


「折角ですし測ってみましょうか」


「えっ」


 そう言うと、ぼくは引き出しからメジャーを取り出した。改めて対面に座り直して、手のひらを前に突き出す。


「天使様もぼくと同じ姿勢をとってください。手のひらを合わせるようにして、その間の距離を測ります」


「なるほど……はい」


 そう言うと、天使様はおずおずと手のひらを突き出した。ぐい、と反発力が働く。あまりきつい反発力じゃない所で手のひらを止めて、もう片手でメジャーを使い手のひら同士の間の距離を測る。


「……だいたい50センチですね。前の天使様と同じくらいの距離です。だいたいみんな同じなのかな」


「そ、そうなんですね……同じ……ふひ……」


 天使様は手をおろし、ちょっと考えると、ぐいっと身体を乗りだしてこちらに顔を近づけてきた。ぼくの顔面に反発力がゆるりとかかる。


 50センチの距離で見る天使様は、それなりにかわいかった。確かに髪はボサボサで目に隈ができているが、多少曇ったその瞳でも少しドキッとした。


「わ、わたし、人間のひとにこんなに近づいたの、はじめてです!えへへ……」


 頬を少し紅潮させて天使様はそう言った。

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