第2話

「それでは改めて自己紹介しましょうか」


 天使様は引き継ぎが終わり、一足先に天界に帰っていった。新しい天使様――これからは単に天使様と呼ぼう――とぼくは今後の仕事のためにも二人で交流することにした。


「ぼくの名前は天宮颯太あまみやそうたといいます。神父見習いで、15歳の高校生です」


「こ、これはご丁寧にどうも……わ、私の名前は彩羽いろはです。彩りの彩にはねの羽と書きます」


「やっぱり天使様も日本名なんですね」


「は、はい、日本担当なので……」


 そういうものなのか。


「わたしも15歳です。い、一緒ですね、ふひ……」


 天使様は顔を引きつらせながらも、少し嬉しそうに言った。


「ぼくはこの教会で神父見習いをしています。住まいもこの教会で、一人暮らしをしています」


「そ、そうなんですね。一人暮らしできるなんてすごいですね、ふひ……」


 さっきからよくふひふひ言うな、この天使様。


「ぼくの趣味は読書です。娯楽小説を中心にいろいろと読みます。」


「なるほど。わたしは特に、しゅっ、趣味はないです。あっ、でっでも、瘴気集めは得意なんですよ、えへへ……」


 瘴気とは、わるい病気などを引き起こす霧のようなものだ。わりとその辺によくふよふよ浮いている。天使様や守護天使様はその瘴気をゲル状にする能力があり、その能力を使って瘴気を集める。まぁ、ゴミ拾いみたいなものだ。


「あれ、でも確か飛べないんでしたよね。どうやって集めるんですか?」


 通常、天使様は空を飛びながら瘴気を見つけ集める。地上には人間がたくさん居て天使様の邪魔になるからだ。混雑した場所では1メートルの距離を確保するのは難しい。


「え、ええと、翼無しなので、深夜か早朝の人のいない時間に歩いて集めます……」


 涙ぐましい努力だった。


「そ、そうなんですね。あと、こちらがぼくの守護天使様です。ルルちゃんと呼んでいます」


「ピッ!」


 そう言ってボクは隣に居る守護天使様――ふわふわ浮かんで丸くキュートな生物――を紹介した。


 守護天使様とは信者ひとりひとりにつく専門の天使様だ。少しの瘴気などは食べてくれるありがたい存在だ。守護天使様にはそうとう近くまで近寄れる。だいたいは信者と一緒に行動してくれる。


「は、はい、はじめまして、ルルちゃん、ふひっ……」


「ピッ!」


 このように、こちらの言葉は理解するが守護天使様の言葉はよくわからない。


「簡単にはこんなものですかね。天使様は他に何か聞きたいこととかありますか?」


「だ、大丈夫です。あっあと、天使様と様付けするのはちょっと恐れ多いです。天使とか、彩羽とか、よっ呼び捨て大丈夫です」


「いやいや、流石に天使呼ばわりはまずいでしょう。ちゃんと天使様とお呼びしますよ」


「うぅ……」


 随分と卑屈な天使様だな……大丈夫だろうか……


「他になにか聞きたいことはありますか?」


 そういうと、天使様はもじもじしながら標準服の裾をいじいじした。癖なのかな。


「ええと、聞きたいことというわけではなっないのですが、実は私は人間の娯楽に興味がありまして……」


「?」


「さ、先程天宮様は読書が趣味とおっしゃってましたが、もしよければ、本を読ませてもらってもよっよろしいでしょうか?」


「ああ、ええ、全然かまいませんよ。そこの本棚からご自由に取ってお読みください。あと、天宮様とかさっきの丁寧な口調は必要ありませんよ。天宮とお呼びください」


「そ、そういうわけには」


「お呼びください」


「うぅ……」


 天使様は涙ぐんだ。押しに弱いな……大丈夫だろうか……

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