自信=傑作?

えーっと、さっきも言ったけど、俺は近藤唯人。美術部。

あ、非リアだから。扱い気を付けてな。

んでね。長ったらしい話嫌いだから本題に入る。


俺の最高傑作が盗まれたんだよ。


コンクールに出す予定だったんだけど。

いままでで、いっちばんうまくいった絵だった。


それで、天童稲荷……稲荷には、この絵の行方を捜してほしいんだ。

もちろん、ただでとはいかないっていったろ?

だから報酬は、俺の絵をあげる。だから、その絵を捜してほしい。


頼む。



唯人は、話し終わると一息ついて、こちらを見つめてくる。

報酬はともかく、少し同情してしまった稲荷は、もうやってやろうとやけくそになった。


「……話は分かった。でも、さ。あんたの絵がコンクールで賞を取るとは限らない。なのに捜すの?」

「ああ。ていうか絶対取る。そう思わないとやってられない」

「やってられない……」

「そ。画家とか、イラスト系の仕事って、完全にモチベで善し悪しが変わる仕事だし。あと、俺、今回の絵には自信がある。ほんとに」

「ふうん」


どうしたものか、と稲荷は考えた。

前回はうまくいっただけで、依頼を受けても、失敗する可能性は十分にある。

その場合、自分に悪い影響が出るのも確かだし、唯人にも少し悪い。成績が悪くなるかもしれない。

ただ、断ったら断ったで、申し訳ないもそうだが、本当に暇人になってしまいそうだ、と頭を巡らせた後。

稲荷はある言葉に引っかかった。


「『絵』を捜す?犯人じゃなくて?」


ふっと口にすると、そうなんだよ、と唯人は声を潜めて言う。


「実は犯人はなんとなくわかってて……」

「絵の在りか教えろって言えば?」

「いや、会ったら分かるけどさ、うん。聞けないんだよ」

「ふうん」


犯人が分かっていれば、何故自分に相談しに来たんだろうと疑問とめんどくささを感じた。

ノートになんとなく聞いたことを描くと、先ほど閉めたはずの扉がもう一度ガラガラと開いた。


「oh……。お取込み中でしたカ」

「あ、いえ」

「そうですカ!では唯人君、今日も絵の特訓をはじめまショ!」


現れたのは、色素の薄い髪はおかっぱにして、ピンク色の淵の眼鏡。小柄な身長が目立つ、同じ学年と見られる女だった。


「誰―――」


だ、という前に唯人が稲荷の方を見て「しっ」っと顔の前で人差し指を立てる。


「さっき言った、恐らく犯人」

「はぁ」


マジで、と心底思った。

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