☆ミッドナイト・エージェンシー☆

猫野 尻尾

第2話:ベストパートナー。

それで彼女とはそれっきりになるもんだと思っていた。

偶然ではない、必然的に彼女は昼過ぎ俺のバイト先にひょこり現れた。

俺はまた固まりそうになった。


「たまごダヴルセットひとつ頂戴」


「あ、・・・どうも、いらっしゃいませ」

「えと・・・たまごダヴルセット・・・少々お待ち下さい」


焦るよね・・・彼女が客として現れたんだから・・・。


「ねえ、時間ある?」


「少しなら抜けられますけど・・・」


「そ、じゃ〜こっち・・・テラスに出ておいでよ」


今日の彼女はレザースーツじゃなく、爽やかなワンピース姿。

綺麗な人はなに着ても綺麗なんだ。


「どうだった?あれから事故の後遺症とかでなかった?」


「大丈夫ですよ・・・って言うか、後遺症にこだわるんですね」


「うん・・・まあね」

「なきゃいいの・・・それだけ」

「君のことが気になったからね、時間あったからお店に寄ってみたの」


「俺のことよく分かりましたね」

「そりゃね、それが商売だから・・・君の居場所くらい朝飯前だよ」

「昨日、デスカウントショップにいたでしょ?」


「はあ、なにかと金欠状態なもんで・・・」

「って言うか、俺がどこにいるか分かるなんて怖いな〜」


「言っとくけどストーカーじゃないからね」


(洋子さんにストーカーされるなら本望だけど)


「あの・・・あのですけど、そのこのままお別れなんでしょうか?」


「え?・・・」


「つうかその・・・これも何かの縁って言うか・・・」


俺は俺と彼女をつなぎ止めようと必死だった・・・俺はすでに病院の

待合室で彼女を好きになっていたからだ。


「そうね・・・本当なら誰とも親しくはしないんだけど・・・」

「そう言えば名前、聞いてなかったよね・・・」

「君、名前は?」


大咲 凛太朗おおさき りんたろうです」


普通ならそれで俺たちは右と左に分かれてさよならってことなったんだろうけど

彼女の気まぐれか?

ビルの陰からキューピットが俺たちのハートに矢を放ったのか?


それ以来、俺たちは繋がりを持つことになって俺は当然バイトを辞めて洋子の

助手兼アシスタントをすることになった。


今や「洋子」「凛太朗」って呼び合う仲になっている。

喧嘩すると、お互いガチおまえ呼ばわりだったりする。

向こうは歳上だからか、なにかにつけて俺を子供扱いする。

上司と部下って言うよりベストパートナー?。

洋子は俺の彼女だからね。


洋子は俺の恋人・・・いつつ歳上の恋人。

もう少し性格が穏やかだったら完璧な女なんだけどな、すべて満足ってわけ

にはいかないか・・・。

男は所詮、女の尻に敷かれるってのがあたりまえのことなんだな。

まあ、そう言う立場に甘んじてることもそれはそれで心地よかったりする。


俺は陽子のプライベートを詮索したりはしない。

だから洋子がミッドナイト・エージェンシーを立ち上げる前の彼女について、

つまり洋子が過去にどんな職業についていたのか俺は知らない。

普通のOLじゃなかっただろうことは分かる。


本当は俺は洋子のすべてが知りたい。

だけど、たとえ恋人でも言いたくないこともあるだろう。

洋子が自分から言わない限り、俺は深くは詮索したりはしない。


彼女の過去を知った時、積み重ねた信頼が崩れる時だってあるかもしれない。

俺はプライベートでも仕事でも洋子のベストなパートーナでいたい。


そしてまた、今日もヤバそうな仕事が舞い込んで来た。

裏社会の揉め事らしい。

まあ、裏の世界のことは、素人の俺より洋子のほうが詳しい。

洋子の知り合いにその道に詳しいやつがいて情報を回してくれる。


まったく蛇の道は蛇・・・どんなに用心しても情報はそうやって漏れるもの。

特に裏社会の情報の流れは毛細管現象のように早い。


さて、洋子の情報をもとに重い腰をあげるか・・・。


外は雨・・・うっとおしい雨の中を動くのはウザい。

でも、なにかが起こる時はいつも天気が悪い気がする。

嫌なことの前兆かもしれない・・・でも今更やめましたって訳にもいか

ないだろう。


情報は洋子・・・動くのは俺。

洋子は持ってるコネが、つながりがすごい・・頼もしい彼女だよ、洋子は・・・。


まあ、とりあえず洋子は俺をパートナーとして認めてくれてるんだろう。


はじめて洋子を抱いた夜に彼女から言われた。


「死ぬまで一緒」って。


そうだな、ミッドナイト・エージェンシーは素人商売じゃない・・・

なにがあるか分からない。

危険なことだってある。

俺と洋子に明日と言うふた文字はないかもしれない。


だからこそ「死ぬまで一緒」・・・この言葉に勝る愛の表現はないよな。

いやいや、俺はあの世でもおまえと一緒だから・・・。


END.









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☆ミッドナイト・エージェンシー☆ 猫野 尻尾 @amanotenshi

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