8 アルバイト代を巡る攻防(中)

 優の買ってきた猫用のベッドでしばらくスヤスヤと寝ていると、なにやら人間が揉めるのが耳に入った。


「チビ太も長くないのにあんなの買ってきて」


 どうやら優が叱られているらしい。しかもわしの歳のせいで。わしはむくっと起きると、茶の間に向かった。足取りはしっかりしている、と信じたい。

 優の肘に頭をすりつけてから、優を叱っている優の母親、つまりかさねの祖母にシャーッと喧嘩を売ってみるも、はいはいとスルーされた。人間というのは大人になると猫が切実に訴えていることもわからなくなるらしい。


「だって……チビ太だって暑いだろ。年寄りが暑いところにいたら具合悪いだろ」


「チビ太ならフローリングで勝手に寝るんだからせっかくのバイト代であんなの買ってこなくていいの! メルカリで売るからね!」


 むむ、このままではあの快適なベッドがメルカリとやらに放り込まれてしまう。慌ててベッドに戻って快適快適……と寝てみる。


「ほら、喜んで寝てるじゃん」


「最初だけよ。明日には飽きてるんだから」


 猫をバカにするでない。こんな快適なベッドに飽きるものか。

 優の母親はさっさと寝てしまった。優はしょんぼりした顔でわしのほっぺたを撫でていた。


 さて、次の日。快適なベッドに飽きたと思われるのを回避するべくベッドにおさまる。うむ涼しい。

 人間はすごいものを作るなあ、といまさらながら思う。すずしい〜。

 それでも優の母親は隙あらばこの快適な、でも物騒な形のベッドを撤去したいようだ。それは阻止しなくてはならない。

 優はきょうのアルバイトは休みのようだ。なにか似合わない顔で考えている。優は母親が漬物を仕込んでいる台所に向かったようだ。


「あのさ」


「なに?」


「あのベッドをもうそんなに長くないチビ太に買ってきたのがダメなら、まだまだ長生きする猫を連れてくるのはどうだ?」


「……はい?」


「だから、まだまだ長生きする若い猫なら、もらってきていいんじゃないかなって……いやごめんなさい、冗談です」


「……デコピンもよそにやっちゃったしねえ」


「だろ? 元気でまだまだ長生きする猫だったら、1匹連れてきていいだろ?」


 なるほど、ねこねこネットワークはこうきたか。顔を上げて話を聞く。


「まあそれは家族会議をしましょう。なにかアテはあるの?」


「同級生の弟がこっそり納屋で野良の子猫に餌やってて、友達も世話手伝ってて、捨ててこられないくらい人間大好きになっちゃったらしくて……お父さんが猫アレルギーで、どうしても飼えないから飼いたいひとを探してるらしくて。責任もって飼い主探せって言われてるらしい。そろそろ半年くらいだって。多頭飼い用のトイレシートにすればチビ太の設備でいいんじゃないか?」


 ねこねこネットワークが新手のやり方を出してきた。ねこねこネットワークの力を持ってすれば家族会議など茶番である。わしは期待して、新しい猫がやってくるのを待つことにした。(続く)

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