7 アルバイト代を巡る攻防(上)

 夏になった。

 デコピンは新しい飼い主のところで、子供と毎日プロレスをして遊んでいるらしい。子供が元気いっぱい、むしろ凶暴なのでその破壊力と比較すれば猫のイタズラなどかわいいかわいい……ということになっているそうだ。ねこねこネットワーク恐るべし、である。


 我が家は寒冷地の昔の農家である、エアコンなどという文明の利器はない。冬ならストーブなりこたつなりで凌げるが夏になると毛皮が暑くてたまらない。ので、昔リフォームをして近代的な作りになった台所のフローリングに転がるくらいしか暑さへの対策はできない。

 昔ながらのだだっ広い農家の家である。人間は扇風機を回すしかないようだ。エアコンを取り付けられる場所などない。

 とにかく暑くてしんどかった。これはわし、もう長くないな……などと猫生をはかなんでみるも、結局最近我が家に本格導入されたエナジーちゅーるがおいしいのでまだまだ生きられる気がするから困ったものである。


 かさねは夏休みで毎日プール通いをしてすっかり真っ黒になってしまった。優のほうは1学期に赤点なしなら夏休みの間だけ許されるというアルバイトに精を出して、なにに使うのかわからないお金を稼いでいる。ギターはもう飽きてしまったらしい。ニンテンドースイッチのほうはかさねとよく遊んでいるようだから、アルバイトで稼いだお金で有料追加コンテンツでも買う気なのだろうか。


 優が7月ぶんのアルバイトの稼ぎを受け取った日、なにやら大きなものでリュックサックを歪ませて帰ってきた。わしは優を胡乱な目で見た。どうせまたなにかろくでもないものに決まっている。わしはぷいっと茶の間に向かい、かさねが遊んでいるどうぶつの森とかいうゲームをじいっと見ていた。


「おーいチビ太。いいもん買ってきたのに」


 どうやらわしにプレゼントがあるらしい。歳をとってから人間のくれるおもちゃで遊ぶことはなくなり、それを優は嘆いていた。まあおおかた「ネットでバズった猫のおもちゃ」みたいな軽薄なものだろう……と思っていたら、なにやらアルミ製の鍋のようなものだった。

 恐ろしや。夏目漱石の書いた明治の書生のように、わしを煮て食う気だろうか。わしは後退りした。知らないうちにしっぽが膨らむ。


「大丈夫だって、煮て食ったりしないよ。これに入ると涼しいぞ!」


 優は鍋を床に置いた。たしかに「猫ちゃんひんやりベッド鍋型」と書いてある。恐る恐る入って、肉球に冷たさを感じる。ごろんと横になると金属が熱を吸ってたいへんに涼しい。

 わしはそのまま寝落ちしてしまった。老猫は寝るのだ。スヤ……としばらく寝た。起きたら夕飯の時間だった。

 わしはキャットフードをもりもりと食べて、ついでに人間の食べている焼き魚を、魚が嫌いなかさねに分けてもらった。そしてまたひんやりベッドとやらに入ると、たいへんに涼しいのであった。(つづく)

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