第2話 ぼっち姫とゲーム部

蘇我征四郎くん、彼とは全く接点がない。容姿は普通の男子生徒だが性格は静かな子だと思っている。

そんな彼と一緒にいたのは、俺の肩想い相手である柏木千尋さん。二人は仲睦まじい様子で下校していて、俺は思わず思わず嫉妬をしてしまった。

一日経った今でもまだモヤモヤしている。どうして二人が一緒に下校していたのかな、と。


「お、おはよう、柏木さん」

柏木さんへの朝の挨拶がたどたどしい感じになってしまった。なんとか軌道修正しないと。


「ん、あ、はい。おはようです」

今日も柏木さんは目を合わさずに挨拶を交わしてくれたが、やはり例の件で発生した俺のモヤモヤは晴れない。

柏木さんはすぐに本を読みはじめる。

もしかして柏木さんは蘇我くんと付き合っていたりして。俺はもしかして失恋をしてしまったということだろうか。

いやいや、まだわからないだろう。これは本人に聞くしかない。


「柏木さんって彼氏っていたりする?」

俺は勇気を振り絞る。


「えっ、ん?」

柏木さんはフリーズする。そして物凄い勢いで首を横に振りはじめる。


「いません、いません、全然そんなの」

ああ、それなら良かった、俺は少しだけ安心する。


「いませんよ私は。だって高柳さんみたいに陽キャじゃないし、あはは。ほら私はぼっち姫とか呼ばれているでしょ。本当にそうなんです、一人が好きって感じで。そんなキラキラした感じじゃないし、あはは。スペックも全然、私は酷いものですから」

饒舌にそれを否定する。正直、そこまで否定しなくてもいいのにと思うが。


「柏木さんは魅力的でしょ」

我ながら突っ込んだことを言う。でも彼女にアピールしないとという気持ちが先行してしまったが故に出た言葉だった。


「ち、違います全然」

再度首を横に振ると凄い勢いで席から飛び上がり、足早に教室を去っていく。

やばい怒らせちゃったかな。


一日中脳内会議で反省点を洗い出しては後悔に苛まれていた。

とにかく結論がある、流石にあれは攻めすぎた。 柏木さんには自分のペースがあるのに無理に話しすぎてしまった。

今日何度も柏木さんからは顔を逸らされてしまい、かなり凹んでしまう。


「おーい、高柳庶務。聞いていますか?」

俺に話しかけてくるのは生徒会長の大森撫子先輩だ。考え事に夢中すぎて全く話を聞いていなかった。ここは生徒会室であることに気づく。


「えっーと、はい」

俺はとりあえず返事をする。

会議に参加している生徒会メンバーの視線が一斉に俺に向けられる。


「じゃあ私はなんて言いましたか?」

撫子先輩は美人なのだが怒ると超怖いのだ。


「……すみません考え事をしていました」

本音で話さなければもっと怒られる。なので素直な謝るのが吉だ。


「しっかりしてくださいね、高柳庶務」

にこりと微笑む顔が怖すぎる。


「すみませんでした」

俺は頭を下げる。


「では一旦話しをおさらいします。生徒会長である私の元に相談が来ました。部活棟三階の一番端の部屋でなにやら変な音がすると」

柏木さんの件で吹っ飛んでしまっていたが、確かにそんな話をしていてたな。


「その実態把握を我々で請け負うという話です。では私と高柳庶務でさっそく現場に向かいましょう」

げ、マジか。逃げられると思ったらそうはいかなかった。今もなお俺に向けられる撫子先輩の微笑が恐ろしすぎる。

俺は諦めて撫子先輩と一緒に例の部屋へと向かうことになった。


「圭司くん、会議はしっかりね」

生徒会室を出るやいなや、撫子先輩はぎゅっ、と俺の制服の裾を握る。


「はい、気をつけます」


「それならよし」

撫子先輩は穏やかな顔に戻る。みんなの前では怖いのだが二人きりのときは優しい撫子先輩になる。

ちなみに撫子先輩とは一個上の学年なのだが幼馴染という関係である。俺としてはずっとこんな様子の撫子先輩で居続けてほしいと思う、本当に怒らせると怖いし。


「微かに変な音がしますね」

例の部屋の前に行くと確かに変な音が聞こえる。ダンダンとなにかを叩く音とか、カチャカチャ音とか。


「ええ、これは相談通りですね」

中からは複数人ではしゃぐ声も聞こえてくる。よく見れば撫子先輩の顔が険しい。

不良が遊び場にしている可能性も捨てきれないよな。


「失礼します、生徒会です」

俺を先頭に空き教室のドアを開く。


「ん?」

小さな部屋でテレビにゲームの画面を写すと、とある三人がそれで遊んでいる状況であった。


「よぉーし確スマ」

あれは蘇我くんだよな。格闘ゲームをしてはしゃいでいる。 


「あーん、これ先生最下位じゃないの」

ん、担任の鈴木先生も一緒じゃないか。


「私は絶対に負けないから」

普段出さないような声量の柏木さんがそこにいる。

三人はゲームに熱中しているみたいで、俺たちに気づいていないみたいだ。


「あのー聞こえてますか?」

撫子先輩は暗黒微笑で三人に尋ねる。隣で見ている俺も変な汗が出てくる。


「「「え?」」」

三人はようやく俺たちに気づいた様子で、声を合わせてキョトンとしている。


「撫子先輩、こ、これは一体?」

俺は撫子先輩と目を合わせる。


「どうやらゲームをしているみたいですね」

撫子先輩はため息をつく。

蘇我くんと柏木さん、そして鈴木先生。三人の関連性がまるで見えてこない。


「あ、やっば」

鈴木先生は引きつった笑みを浮かべてぼそりと呟く。


「えっ、みんなはどんな集まりなの?」

俺はそう尋ねると全員一瞬静まる。ゲーム音声だけが室内に響き渡る。


「ここ、ここはひ、秘密倶楽部です」

柏木さんは真っ先にそう主張する。


「ん、秘密倶楽部?」


「おいぼっち姫、それは名称だろ。学校へはゲーム部で通すはずだろ」

蘇我くんは俺たちから目を逸らし苦笑いする。


「ゲーム部?」

俺と撫子先輩は互いに顔を見合わせる。

俺たちの頭にはてなが浮かぶ。

……ゲーム部?

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