第23話 人違い


 初めて挑戦したロリマンガの原作だが、編集の高砂さんから大絶賛してもらえた。

 ただヒロインについて、あらぬ疑いをかけられてしまったが。

 実際に存在している女子中学生を、モデルにしているのではないか? と。


 まあ男子中学生の少年。航太をモデルにしているから、問題はないだろう。

 別に彼といやらしい行為を、したわけでも無い。

 少しアイデアに協力してもらったが、あとは俺の妄想を膨らませただけ……。

 

  ※

 

 無事に原稿料を支払って貰えたということで、さっそくコンビニへ買い物に出る。

 半纏はんてんを羽織って、サイズの合っていないジーンズを履く。

 一応、靴下を履いてはいるのだが、くるぶしが出てしまう。


 別におしゃれで出しているわじゃない。

 これ一本しか、ジーンズを持っていないからだ。

 学生時代、元カノの未来に誕生日プレゼントとして貰ってから、ずっと履いている。

 

 貰ったのが、20歳になる年だったのだが……。

 一年で身長が7センチも伸びたため、ロールアップしたような状態になっている。

 貧乏な俺からすると、嬉しくない成長だ。


 いつものように、コンビニで芋焼酎とウイスキー瓶をカゴに入れ、つまみを選ぶ。

 今日は寒いからおでんにしようか……と、カウンターを眺めているとあるものに目が移る。

 肉まんだ。

 航太のやつ、こんな寒い日でもまたアパートの冷たい廊下に座っているんだろうか。

 また買っていくか。

 正直、アプリくじの当たりという嘘が、いつかバレそうで怖いが。


  ※


 パンパンに膨れた白いビニール袋を持って、自宅のアパートへ向けて歩き始める。

 今日はどんな格好をして、彼は座っているのだろうか?

 また女物のトレーナーワンピースでも着ているのかな。

 

 この前、航太が家に泊った時。気になった俺は彼に質問をした。

「なんで女物しか着ないのか?」と。

 すると彼は、当たり前のように答えた。

「だって、母ちゃんのお下がりだもん。細いのを着たがるけど、胸がきついらしいよ?」


 何とも、母親想いの彼らしい答えだ。

 綾さんが着られないからと言って、息子が着るものなのか?

 航太に渡す、綾さんの神経も疑う。


 と考えていると、アパートが見えてきた。

 俺の考えていた通り、二階の廊下に一つの影が目に入る。

 体操座りをして俯いている。


 俺は急いで錆びた階段を駆け上がる。

 早く彼に、肉まんを渡したいからだ。


「おい、航太。またこんなところで暇つぶしか?」


 と彼の小さな肩を掴もうとした瞬間。

 ある違和感に気がつく。

 それは背中だ。航太にしては、広い。

 

 ファッションも全然違う。

 紺色の大きな襟……どこかで見たことあるような。

 そうだ。この前、航太が着たセーラー服に似ている。

 

「あ、翔ちゃん! おかえり!」


 こちらへ振り向いたのは、男子中学生ではなく。

 航太より年上の女子高生だ。

 俺はその顔を見て、ため息をつく。


「はぁ、なんだ……あおいか」

「なにその反応!? 酷くない?」


 黒崎くろさき あおい

 年の離れた、俺の妹だ。


  ※


 玄関に入ると、部屋の灯りをつける。

 キッチンの上にビニール袋を置いて、サンダルを脱ぎ捨てる。


「ほら、お前もさっさと入れよ」


 と後ろを振り返ると、妹の葵が玄関に座り込む。

 何をしているかと思ったら、俺のサンダルを綺麗に並べていた。


「もう、翔くんって本当にだらしない。だから未来さんに振られたんじゃないの?」

「いや……あいつは、関係ないだろ」

「関係あるよ! キッチンだって……あれ? 綺麗だね」


 葵に指摘されるまで、気がつかなかった。

 今までとの違いに。

 航太が隣りに引っ越して来てから、よく洗い物や掃除をしてくれる。

 だから年中、ゴミだらけの汚部屋が、別人が住んでいるように綺麗さっぱりだ。

 

「その……たまに友達が片づけてくれるんだ」

「友達? そんな男の人なんている~?」


 どこか意地の悪い顔をして、玄関にあがる葵。

 そして、キッチンにある鍋や調理器具を眺める。


「本当だって。すごく優しい子でさ、この前なんか、おでんを作ってくれてさ」

「ふ~ん」


 俺の話など無視して、航太が買い直したフライパンを手に持つ。

 メーカーのロゴなどを確認すると、振り返って微笑む葵。


「翔くん、隠さなくても良いよ。未来さんとよりを戻したんでしょ?」

「は……?」

「料理だけじゃない。隅々まで部屋が綺麗に整理されているし。見ればわかるんだよねぇ」

「なにがだ?」

「女の匂いってやつ!」


 そう言って、ビシっと人差し指を俺の胸元へ指す。

 

 航太は間違いなく、男の子なのに。

 女として見られているようだ……。

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