第17話 これが日本人よ
「探せ!探せ!探せ!」
「何処かに金があるはずだ!」
「探せ!金を探せ!」
「俺たちは絶対に金持ちになるぞー!」
殺された源蔵さんの所の二人の甥っ子は家の外で伸びているし、家の入り口のところでは百合子さんが頭を抱えて座り込んでいるし、源蔵さんの家の中に置かれた申し訳程度の家具とか洋服とか、外に放り出す形で家探しをしているみたい。
あまりの騒ぎに、周りに住む日本人たちも集まり始めているんだけど、中で暴れているのが昨日やってきた新労働者の若者たちみたいだし、昨日来たばかりの人たちだから、どんな人なのかもよく分からないし・・どうしたものやら・・と、思っているところに、私とマティウスさんが現れたので、ササーッと道をあけていきます。
「アーン?」
マティウスさんは家の中を覗き込むと、大声で中に呼びかけました。
「オイジェンチ!ウキエスタファゼンド?」
何しているの?って尋ねているだけなんですけども、暴れていた日本人たちがピタリと動きを止めたようです。
「タマチャ、ウキエリスエスタオンファゼンド?」
「コメテラドラオン!」
「ウケ?」
「ファゼンダ、サラリオムイトバイショ!ポルイッソ、コメテラドラオン!」
「ノッサセニョーラ!」
どういうことって周りがギョッとしていますけれども、私がマティウスさんに何を話しているのかを周りは全然わかっていない。
私はマティウスさんから、彼らは何をしているんだ?と尋ねられたので、泥棒しているのよって言ったわけ。
農場の給料が安いから泥棒しているって言ったの。込めて!ラドラオン!(泥棒)と覚えています。マティウスが言ったノッサセニョーラは、ああマリア様ってこと。キリストの母よ、どうしてそんな!みたいな意味かな?分からんけど。
「珠ちゃん!何処に行っていたの?」
奥の部屋の方から埃まみれの松蔵さんが出て来ました。一人を締めあげて脇の下に捕まえているので、とりあえず新人労働者を取り押さえるのに活躍していたみたいですね。
「ケンエ?(誰)」
「アミーゴ(友達)」
「アミーゴ?」
「エ、メウアミーゴ」
「ウーフーン」
マティウスさんは友達だと紹介された松蔵さんと握手をすると、松蔵さんと一緒に泥棒に入った新労働者たちを縛り上げた。それから、彼らのポケットに入っているものを全て床の上に投げ出していきました。結構なお金が床に放り出されたので、これが彼らのお金なのか、源蔵さんが溜め込んでいたお金なのかが分からない。
「珠子!大丈夫だったか!」
そこでようやっと徳三おじさんと通詞の山倉さんがやって来たので、大きなため息を吐き出したマティウスさんがこちらを振り返って、
「アゴラナオンテンプロブレマネ?(もう問題ない?)」
と、言いました。
「オブリガーダ、マティウス、ナオンテンプロブレーマナオン(ありがとう、もう問題ない)」
本当、マティウスさんは、わかりやすくポルトガル語を話してくれるので助かるんですけど(本当に簡単な単語しか使っていない)みんながシーンとなって、ドン引きした感じで私を見てくるんですよね〜。
お前らも二年もこの国に住んでいるんだろ?だったらこれくらい理解しろよって思っちゃいますよ。
「ボアノイチ、タマチャ」
「ボアノイチ、マティウス」
「チャオ」
「チャオ、ムイトオブリガーダ、マティウス」
自分の家に戻っていくマティウスおじさんを見送っていると、百合子さんが私に縋り付きながら言い出した。
「ありがとう!珠子ちゃん!やっぱり持つべきものは珠子ちゃんだわ!」
「そうでしょう、そうでしょう」
日本人って、同じ日本人同士で固まっている時には肩を怒らせて歩き、胸を張ってそりゃあ偉そうにしていたりするんですけど、ゴッツイ体つきのおじさん(ブラジル人)が近くを通っただけで、道の端に寄って俯き、俺には話しかけてくるな〜!っていう念を送っているんです。
どれだけ大騒ぎをしていても、ブラジル人が、
「ウキエスタファゼンド?」
何しているの?って問いかけられるだけで萎縮しちゃう。
言葉が喋れないから萎縮しちゃうんだって言うんだけど、さっさとお金を稼いで故郷に錦を飾るために帰る予定だから、全然こちらの言葉を覚える気がないんだよね。
だからこそ、騒動が起こった時にはブラジル人を連れて来たら良い。みんな、借りてきた猫のように即座に静かになるから。マティウスおじさんなんか良い人なんだけどね?インディオの血を引いているから、日本人にちょっと似たような顔をしていると思うし、親しみが持てると思うんだけど、彼は農場労働者の中では古株になるので日本人からするとヤクザの親分みたいに見えるみたい。
親分と言うのなら農場主(パトロン)ってことになると思うんだけど、これは優男すぎて違うらしい。めちゃくちゃゴツいので親分と言うのなら、マティウスおじさんになっちゃうのかなぁ〜。
「珠子、新労働者を捕まえたのは分かるんだが、床に落ちている金は一体なんなんだ?」
「あ・・それね」
泥棒に入って暴れているわけだから、家の中で見つけたお金はポケットに突っ込んでいったんだと思うんだよね。マティウスもそう考えたから、泥棒を捕まえた後に持っていた金を床に投げて帰って行ったんだろうし。
「その金は俺の金だぞ!」
「何を言っているのよ!源蔵さんが私たちのために残しておいたお金よ!泥棒して持っていくつもりだったくせに!嘘ばっかり言わないで!」
早速、床に転がっている男たちと百合子さんが口喧嘩を開始している。
源蔵さんはね、元々、小金を溜め込んでいるようなタイプの男だったんだけど、正直に言ってどれが源蔵さんが溜め込んだ金なのか、何処までが新労働者の金なのか、直にお金にサインをしているわけじゃないので全然、分からない状態になっている。
「珠子〜・・」
これはかなりまずいことになったけれども、元々は、一攫千金できないことに気が付いて焦った新労働者たちが、怒りに任せて源蔵家を急襲したのが悪いんだよね?
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このお話は毎日18時に更新しています。
最初はブラジル移民の説明の回がしばらく続きますが、此処からドロドロ、ギタギタが始まっていきます!当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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