”夏とロマンスと魂と”

柩屋清

1話完結

 〜お知らせ〜

来たる八月十三日、正午頃、貴方様は或る女性の事で胸が切なくなります。

よって日常の生活、運転等、より安全に気を配られるよう御願い申し上げます・・云々。


「ふざけやがって!」


そう呟きながら、男はバイクのエンジンを掛け始めた。

えてワープロで記していながらイタズラに品を持たせようとしている。


「どうせ、字が下手なんだろ!?」


もみあげ辺りの汗を拭いながら、不満を吐きつつ、メット・インにそのA4版の用紙を、畳み、突っ込んでいた。

映画を観る為、時間には融通が、きかない。


*****


「やはり、そうだった・・」


男の観た恋愛映画は主人公の女性が若くして病死する・死別の幕切れに特性があった。


「久美さん」


九才ここのつの頃、雨の日に男女・四人でターミナル駅前の書店にマンガの本を買いに出掛けた事があった。

資本は久美の父の”おごり”でバス代も含め一・二万円はあったと記憶している。男は、貴重な出版物を得る稀有な体験をしていた。

更に数ヶ月前、その九才の男女・四人と、珠算塾の経営主との五名で高尾山に登ったが、男との少年とで様々な不満を口にしたせいもあり、内容的には失敗の趣と化したレクリエーションとなっていた。

そんな折もあり、久美の父親は病弱な娘の為に引率の大人をもぎ、一ドル240円の時節に二万という大金で思い出の機会を与えた。

雨の地元のバス操作場では彼女の父が笑顔で娘を迎えに出ていた。


*****


「ーー久美さんは昨日をもって、学校と、病院の併用している施設に転校となりました」


何日、経過したかは憶えていないが、担任の教諭が、その朝、一番にクラス全員に、そう伝えていた。雨の日にマンガを買ってもらい、喜びが冷めかけた、その頃だと男は回想する。万一、当時の男に成人男子の内面が備わっていたら転校いこーる死ではないか、と際したに違いないが、残念かな彼には少年の志しか無く転校した淋しさしか持ち合わせていなかった。


おそらく、あの直後、亡くなっていたら」


苦しくも男は計算すると2004年に二十七回忌となる算出をしていた。その時期は仕事で一番、命を削って生きていた頃で早出・一時間、残業・二時間、週六日勤務が平均となっている。当然そんな毎日では映画など観るすべも無く、似た趣の邦画を三年後にDVDで鑑賞していた程だった・・えてズラしたのか、そう感じると男は既に彼女は生まれ変わっているのではと楽観し、考えを変え始めた。


*****


 〜お知らせ〜

来たる八月十三日、正午頃から、殿宮とのみや街道・晴見はるみ橋付近の道路修復工事を行います。近隣の皆様には、たいへん御迷惑をおかけ致しますが、何卒、御理解・御協力のほど、御願い申し上げます。


    山藤建設 山野 不二夫


「えっ?」


男はA4版の紙を誤読していた。

もの凄い勘違いだったが、と男は解釈する様にしていた。


”本当の供養とは来世、健全な心と体で生まれる事を祈ってあげる行為”


いつか母親が誰かの葬儀で言っていた事を、男は思い返した。


「さようなら久美さん。さようなら


男は輪廻を信じれば人は現在と未来を、より大切に出来ると彼女の来世を具体例に、そう考えて止まなかった。


(了)

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