ニャンコホール

@ramia294

  生体コンピュータ

 それは、量子コンピュータが、圧倒的な性能差で生体コンピュータに、駆逐された少し前。

 


 突然、現れる暗黒の穴。

 この世界のもっとも大切なもの。

 愛を奪っていく、

 暗黒の穴。


 それは、ニャンコホール。


 あなたの愛する、

 この世で、最も大切な、

 存在、


 猫。


 猫を突然連れ去る、ニャンコホール。

 それは、暗黒の穴。

 その恐怖が、作者にも近づいていた事に気づかなかったあの時。


 去年の茶の毛玉の誕生日。

 3歳になったその日。

 君は、チュールで、

 僕は、ビールで、

 乾杯をしたあの日。


 作者の眼の前。

 眩しい陽射しを受け、光るブラウンの毛皮。


 ヒョウよりも美しく、

 ジャガーよりもしなやかな、

 その模様は、

 どんな絵画よりも美しい。


 それは、君のロゼット。

 それは、君の模様。

 それは、絹の手触り。


 語りかける様に見つめる、エメラルドグリーンの瞳は、中心から等距離の軌跡を描き、


 その輝きは、

 生まれたばかりの小さな星の輝き?


 それとも、

 夏に燃えた恋の光を抱く海の煌めき?


 君の、

 しなやかな動きは、甘えるため。


 擦り寄る身体。


 時に、背中に乗り、

 時に、ベッドに潜り込む。


 その声は、

 その鳴き声は、

 過ぎ去ったあの頃の懐かしい波音?

 それとも、青春時代の初恋を懐かしむあの歌声?

 聞くたびに微熱を持つ、作者の魂。


 その爪は、悩み続けた長く苦しい時代の、

 心の澱みを引き裂き、

 作者を光へ導く宝剣。

 

 

 蕾を開くたびに春を呼ぶあの花の様に、

 ひと足ごとに幸せを生み出すその存在。


 その茶色のロゼット。


 大きな愛を小さな身体いっぱいに受け、光り輝く時間を生きるその茶色い毛玉。

 そのロゼット模様。


 作者の最も大切な……、

 小さな命。


 しかし……。



 ニャンコホール。


 世界の猫好きを恐怖に叩き込む、その穴。

 その恐怖は、作者の元にも近づいていた。


 猫好きの愛の全て。

 その存在を奪うニャンコホール。


 世界の猫好きは嘆き悲しむ。

 その心は自らの流した涙で出来た湖の底へ繋がれ、溺れ続ける。


 いつ、現れるかもしれない、

 恐怖のニャンコホール。

 

 作者は、自らの愛を守るため、正義の剣(奈良公園のお土産屋さんで売っている木刀)と兜(同じくお土産屋さんのビニール製鹿角)を用意して、猫のキグルミを着て、準備した。


 その姿、まるで、この地のゆるキャラ。

(許可は、取っていませんので、名前は言えず。ちなみに、可愛い方です)

 作者は、ゆるキャラ体型。

 お腹ポチャポチャ。

 似合うキグルミ。


 突然現れる、ニャンコホール。


 愛する茶の毛玉が、飲み込まれる。

 作者は、躊躇なくその漆黒の中へ飛び込む。

 茶色のロゼット模様に伸ばす手。

 触れる事なく、飛ばされる身体と心。

 使うことなく失う、正義の剣とビニールの鹿角。


 お土産屋さん、ゴメンナサイ!!


 気が付くと、砂の上。

 空には、太陽が無く、しかし、明るかった。

 ぼんやり発光している世界。

 異世界。


 やはり、ここは、異世界。

 ニャンコホールは、異世界へと続く穴だった。


 暖かい空気は甘く、呼吸だけで空腹感を忘れる。

 作者の全てを偽物の幸福という名の堕落で満たし、真の幸福を忘却の湖に沈めようとする。

 異世界の幸せ。


 忘れてはいけない、

 忘れてはいけない作者の愛する茶の毛玉。

 そのロゼット。

 周囲には、見当たらず。


 愛する毛玉は、他の猫とは、違う。

 高温多湿のアジアの山猫の血統。

 砂漠に起源を持つ他の猫と違い、渇きに弱い。


 早く見つけないと。

 焦る作者…。

 意味なくその場でクルクル、

 クルクル。


 遠くに見える三角。

 あれは、ピラミッド?


 全周、砂。

 又、砂。

 砂以外に、存在する物の無いこの場所。


 三角の建物以外、茶の毛玉の手がかりは無い。

 とにかく、三角へ。


 進み出す作者の足。

 しかし、ピラミッドまでの距離は、


 遠いのか?

 近いのか?


 分からなくなる。


 距離感を失う、砂だけの世界。


 しかし、自身の最も大切な茶の毛玉のため、走り出す作者。

 の衰え始めた肉体。

 砂にとられる足。


 アブレーションで、修理完了の心臓が、再び悲鳴をあげても、我が愛のため、止まらない作者の足。


 1分後到着。

 大きな覚悟の割に、すぐに到着。

 失った距離感。


 遠くに感じたのね!

 

 いよいよ、老眼?

 いよいよ、大人?


 イヤイヤ、アレアレ??

 

 ずいぶん近くにあったピラミッド。

 距離感が分からなかったのは、ただの老眼。


 オヤオヤ、アセアセ!!


 しかし、この建物。

 ピラミッドと違い、空中にプカプカ浮いている。


 浮遊ピラミッド。


 随分高く浮いている。

 これは、困った。

 ジャンプしても、届きそうになく、作者の愛する茶の毛玉の行方、

 唯一の手がかりに、辿り着かない。


 ここは、異世界。

 作者は、カクヨムファン。

 少しは、書いたりもしている。

 (お粗末ですが、良ければお読み下さい)


 異世界を書く事は、難しい。


 しかし、

 異世界のお話は、好き。

 読む。

 楽しむ。

 面白がっている作者。

 いつかは、書いてみたい異世界。


 そんな事は、ともかく……。


 異世界の特徴は、知っている。


 努力が、報われる。

 それが、異世界。

 どんなに、リスクを支払っても、それ以上のリターンが返る。

 死んでも、生き返りレベルアップ!


 理不尽と石ころの数。

 どちらが多いかで、数学者の頭を悩ませる現実世界とは違う。

 努力の報われる世界。

 行ってみたい、異世界。


 作者は、願った。

 空を飛びたい。

 翼がほしい。


 強く願った。

 キグルミの背中のファスナーが下がり、

 作者のセクシーな……。

 いや、くたびれた背中がむき出しになり、コウモリの翼が現れた。


 羽ばたく作者。

 空飛ぶ作者。

 上る作者の身体。

 落ちる拙作の週間順位。


 真っ直ぐピラミッドに向かう。

 しかし、入口が見当たらず。


 おそらく、魔法。

 呪文で、開く?


「開けゴマ」


 開かない。


「開けウニ」


 やはり、開かず。


 呪文は何?

 もしやの、

 まさかの、

 作者は、叫ぶ!


「星は3つが好き!」


 突然入り口の開く、

 浮遊ピラミッド。

 内部には、何処までも続く平原。


 そこまで大きくないはずなのに、全方位地平線。

 突然の光が、天空より降りてくる。

 光の中には、この世の物とは、思えない美しい女性。

 頭には、光の輪。

 美の女神?

 わかり易い設定。

 

 その美しい姿から、どんなに美しい声で鳴く鳥にも負けない美声が、発せられた。


「お前は誰だ?ここは、祈りの集う地。物書きなどという不浄な者か入って良い場所ではない」


 不浄?

 作者の事か?

 

 ………。


 思い当たるものが多過ぎて、どれの事かを悩む作者。


 それにしても、不浄。

 約1分、今までの数々の悪行を思い出す作者。


 あれ?

 それ?

 どれ?


 どれの事か特定出来ない作者と、女神の気まずい沈黙。

 それは、まるで少年の日に、初めてのデートで話題を探し続けるあの日……。


 ちょっと違うかも?


 不浄でなければ、物書きではない。

(皆さんゴメンナサイ)


 勝手に結論づける作者。


 作者復活!


「僕の愛する猫を探しています。この世界に落ちた事までは、分かっています。行方を知っていれば教えて下さい」


 すると、その美の女神の美声再び。


「お前たちが、猫と呼ぶ物。あれは、我々が創った祈りの形だ」


 女神さまの話し方は、難しく長いので、作者が要約すると、

 その昔、人々は信心深く、神様たちに一生懸命祈りを捧げていた。

 その祈りをエネルギーに神様は、活動の幅を広げた。

 時代が下り、本当に信心深い者がいなくなった作者たちの世界。

 祈りのエネルギーを期待出来なくなった世界。

 ほとんどの神様は、そんな世界を見捨てて、新たな世界を創造するため、旅立っていった。


 その時は、まだ幼すぎた女神。

 彼女の慕う神さまもそんな中に。


 結局想いを告げられなかった女神さま。

 女神の想い神は、他の女神を連れ希望の桜色の切符を持ち、別の宇宙行きの列車へ。


 女神は、涙色の切符……。

 それは、片思いへの入場券。

 それは、失恋の痛み。

 

 慕う神様に、旅立って行くホームの外れで、そっと別れを告げ、それで女神さまの初恋は終わった。

 乙女の女神さまのワルツ。

 

 しかし、女神さま。

 乙女の失恋から不死鳥の様に蘇り、

 小雨降る日の切ない胸の中、考えました。

 女神さまは、

 優秀な方でした。

 祈りの力に代わるものをと考えられました。


 それが、猫。


 無条件に人々が、愛を注ぐ猫。

 愛の力で、満たされ輝く猫を回収。

 猫から愛を吸収して祈りの力に代わるエネルギーとする。

 それは、祈りのエネルギーよりも高品質、高効率。

 そして、大きな力を持つ。


 それをエネルギーとして動き、管理制御する生体コンピュータ。

 それが、浮遊ピラミッド。


「僕の猫を返して欲しい。全ての猫の飼い主は、そう考えている」


 作者は、最も大切なものを諦める気はない。


「しかし、祈りの力に代わるものの存在を仲間の神に伝えれば、またこの星に戻って来るかも知れない。そうすればあの方も」


 初恋に躓いた女神。

 病む心。

 無理もない。

 叶わぬ想いをいつまでその心に抱き、長い時を過ごしてきたらしい。


「その愛は、猫に注がれたもの。神さまに向けられたものでは、ありません。神さまなのに、僕たちの愛を勝手に奪い、利用するのですか?それでは、まるで泥棒です」


「しかし、祈りの力がないと、あの方は帰って来ない。私は永遠に孤独だ」


「猫に向けられた愛を奪うのではなく、あなただけに向けられた愛を生きる力にすれば良いと思います。昔の恋は、美しい思い出だけに変えて、これからは、新しい恋をあなただけに注がれる愛を見つけてみませんか?」


 女神さまの目から涙が溢れ。

 彼女の初恋は、終わった。

 作者は、女神さまの肩にそっと手を添えた。


「僕と僕の生きてきた世界へ行きましょう」




 それから間もなく、世界で最もモテない作者は世界で最も美しい女性を妻にした。

 もちろん愛する茶の毛玉も一緒だ。

 

 次世代コンピュータの最有力候補の量子コンピュータを圧倒的な性能差で、またたく間に駆逐していった生体コンピュータ。


 その本体は浮遊ピラミッド。

 

 全ての生物のDNAに組み込まれた、極小ニャンコホール。

 地上に生まれる愛をほんの少しずつ集め、エネルギーとして浮遊ピラミッドを稼働しています。


 現在では、地上のあらゆる事に貢献する生体コンピュータ。


 しかし、この高性能は、地上の愛の総量に支えられています。

 地上に争いがあまり増え過ぎると、性能が落ちていきます。


 ご注意!

 ご注意!



 ところで、世界中の猫は、無事飼い主の元に戻り、みんな幸せに暮らしています。


 『生体コンピュータ浮遊ピラミッド』


 その稼働に、世界中で最も貢献している猫とその飼い主たち。


 どんな時も、隣に猫のいる生活を送る人々は、愛に満ちた幸せの国の住人なのです。



           終わり







 


 

 

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