無料の代償

トマトも柄

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 その男は俳句を書くのが趣味であった。

 いつも俳句を書いてはどこかに掲載を行っている。

 時には応援するために無償で俳句を書いていたりもした。

 その都度に俳句の感想を貰ったりなど大いに感謝していた。

 しかし、そんな出来事も長くは続かなかったのである。

 男はトラブルにより生活が困難になり始めていたのだ。

 このままでは生活ができなくなるという事で俳句を有料で出すことにしたのである。

 ただその有料で出した俳句は全く売れなかったのである。

 生活も苦しくなり、男は俳句を書く量を減らしていった。

 男は常に苦しい状況に立たされていったのである。

 そして、絵を描ける人を羨ましそうに見ていた。

 絵を描いた反応を貰え、さらに依頼も貰え、みんなから愛されているというのを羨ましく見ていた。

 男はだんだんこう考え始めてしまったのである。

 文字には価値がないのか……と。

 そして男の生活はどんどん追い込まれていく。

 その日の食事を稼ぐので限界がきており、食事量を減らし、水分量を減らし、睡眠時間を削ってその場しのぎの食事費用を稼いでいた。

 体力と気力も限界に近付いており、その場をしのぐので精一杯だった。

 そして、普段の事も出来なくなっていき、やがて皆の前に姿を現す回数も徐々に減っていった。

 皆なら私がいなくても問題ない……そういう考えも徐々に出てきてしまっていたのである。

 そして、男は活動自体もかなり減っていった。

 体も細くなっていき、食事を取っているのかと心配されるようにもなってきた。

 けれど、男は普段の生活に戻そうと努力していた。

 俳句も書いていったが、生活費の補充ができなかった。

 普段の生活で稼ぐにも限界が来ていた。

 そして、男は最後の俳句を書き上げた。

 そう……もうみんなに会いたくても会えないところまで追い込まれてしまったのである。

 やせ細った腕で筆を置き、書き上げた俳句を確認する。

 そして男は書き上げた俳句を掲載した。

 男はこう思っていた。

 どうせ掲載しても中身は読まれていないのだろう……と。

 そして男は姿を消した。

 海へ行ったのか、山へ行ったのか分からない。

 ただ一つ言えるのは最後に俳句を書き上げた後に誰も動いてる男の姿を見る事は無かった。

  

 

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