ねこのまんま

霙座

第1話 とうふとすり身

からすとけんかしている黒ねこが

ベランダに降ってきた。

回転して起き上がって黒ねこは

平たい顔になって片足を上げて

威嚇してるなあ。

黒ねこは

しゃー、にゃろーって

言ってる。


曇り空にからすと黒ねこは

少し不穏だ。

黒ねこが

ペペロミアの鉢皿を踏んだ。

あっ

案の定鉢はこてんと倒れ土がこぼ

……硬くなっていたらしくてちょっとだけ零れた。

大した被害じゃないな

まあ、あとで起こすか。


それにしても

どすの効いた鳴き声をしやがる。

いつまでやってんだろ。


炊き立ての白米の入ったお椀、薬指で箸を挟んで

右手にみそ汁の片手鍋、

こたつの前で立って眺める。


まあ、もう食べようかな。

うるさいけどうるさいだけだしな。


見ていても解決するわけもなく、

それより急須のティーバックを引き上げないと。

渋いのは苦手だ。

平らなコルクに鍋を置く。

こたつの天板に先に置いたおたまと木の椀。


今日のおみそ汁は、定番のとうふとすり身。

小鍋のふたを開ける。


「魚の匂いがする」


……俺以外の声がした。

ひとり暮らし、なんだが。


振り返る。

視線を、落とす。


黒ねこ

って

しゃべるのか。


「ねぎを入れる前に、ごはんに掛けてください」


どこから入ってきたのだろう。

まだ寒い時期なのに窓でも開いてたかな。


「けんか、終わったのか」

「おれの勝ちだぞ」


そうですか。






……俺はすり身のみそ汁って言ってるけど、すり身とは魚のすりつぶしたもので、

どうやら世間ではつみれ汁というらしい。(雪緒)





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