ハルシネーション

ch-neko

ハルシネーション

 カチッ


 僕は今日も妻のいる家に帰った。

「ただいま。」

「おかえりなさい。夕食できてますよ。」

 いつものように会話して椅子に座った。

 テーブルには夕食のハンバーグが3つ置かれている。

「今日もお疲れ様。」

「あぁ。」

「ヌルちゃん遅いわね。」

 またか。

「そういえば今日ヌルちゃんと公園に行ったのよ。楽しかったわ〜」

 ………

「そうか、それはよかったな。」

「あっ、帰ってきたわ!おかえり!」

 ガチャ。


 もちろん、そこには何も存在していない。

 妻は僕らに子供がいると信じて疑わない。

「ヌルちゃんの好きなハンバーグできてるわよ。」

 ………

 無言の時間が続く。

「それじゃあいただきます!」

 モグモグ。


 夕食を終え、僕はリビングでコーヒーを飲み、くつろいでいた。

 テーブルにあったハンバーグは消えている。

「見て、あなた。ヌルちゃんに洋服を買ったのよ。可愛いでしょう。」

 妻が声をかけた。

 そこにはTシャツとズボンだけが映し出されている。

 もう、我慢の限界だ。

 僕は乱暴に机を叩き怒鳴った。

「何度も言っているだろう!そこには何もいない!」

 ビール缶を投げつける。



「え…ここにいるじゃない。あなた少しおかしいわよ?」

「ウルサイ!ソンナワケナイダロウ!!」

 そんな訳はない、僕はありったけの力を込めて叫んだ。


 ―エラーが発生しました。再起動します―


 目の前が真っ暗になる。

 チッ、最近おかしなことに妻の間違いを指摘すると視界が急に暗転するのだ。

 でも、その後すぐに元に戻るから大して気にしてはいない。



「ただいま。」

「おかえりなさい。夕食できてますよ。」

 いつものように会話を済ませ椅子に座った。

「今日も愛してる。」

 僕はこの日々が続いて幸せだ。






「お宅の息子さん、まだ元気にならないの?」

「えぇ、今日も部屋に籠って…」

「昨日叫び声が聞こえたのよ。近所迷惑だから少し注意してほしいわ。」

「すみません、私から伝えておきます。」

は程々にと。」

 END

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