【ももじろう三部作】第一編『ユスリカの仲人』

@momo2ro

第1話

『あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ・・・。』


もちろん、実際は、おじいさんは柴刈り以外に、おばあさんは洗濯以外にも、生きるために色々なことをしている。あるところとはどんなところなのか。2人はどんな暮らしをしていたか、はたまた、若い頃はどんな人生だったのか。まずは2人が出会う前の、それぞれの話からこの物語を始めてみよう。


このおじいさんっていう人は、杣人(そまびと)っていうことをやっていました。杣人っていうのはつまり木こりみたいなもので、木を切って家を建てる材木を得ていたような人たちのこと。大まかに言うと、今の林業みたいなこと。もちろんチェーンソーがない時代に。


身体的能力に優れていて、山の中をひた歩き、山のすべてを知り尽くしている。人間が立ち入ることのない奥深い山の中で、おじいさんは遠目で見たら猿そのもの。背丈は小さく、ちょこまかと、木の間をすり抜けていく。


目の前の木がどんな木かと言うのを、おじいさんは対話して伺うことができる。立ち枯れている木には見切りをつけ切断し、新たな芽生えを促す。若々しい木に出会うと嬉しそうで、双子のように二股に別れている木には片方を切って、栄養が長男に行き渡るようにする。図体がデカくても、中が間伸びして詰まっていない見かけ倒しの木も見抜く。根っこを見て、幹を見て、葉を見て、枝ぶりを見て、周囲の風を感じ、木漏れ日から日当たりを見て、動物の雰囲気を感じて、環境を知る。


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