第4話 クイズのルールは


 【日時計の鐘】広場には、もう既に人々が集まり始めていた。俺はその人たち――言うなればライバルを観察しながら、用意された回答者席の一つに座る。


 コンクリート舗装された地面の広場には、白くて大きなシートが広げられており、その上におなじみの黒い椅子と机のセットが五百ほど置かれている。五百――この数字が、新しく異世界転移してきた人とクイズを乗り越えられずに「死んでいく」人たちとをプラマイした大体の数である。つまり、これがこの世界の住民の数であり、この数に見合うように俺たちの頭数は調整されているわけだ。


 頭上には、これでもかとばかりに晴れ渡る青空。そこに浮かぶのはもくもくと立ち上る入道雲。夏のような情景だが気温はそこそこ。この世界に居ると季節感が段々おかしくなってくる。


 机の上には、これもいつも通り。タブレット端末くらいの大きさの電子機器が置いてある。タッチパネル操作形式のもので、俺たちはこれで回答を送信するのである。


 続々と住民たちが集まってきた。黒い机椅子が次々と埋まっていく。俺の隣の席には、大人の綺麗なお姉さんが座った。前には頭髪が少なくなってきたオジサン、斜め左前には同じくらいの年頃の眼鏡の男子。皆、緊張感を漂わせつつも、もう慣れきってしまったという表情をしていた。


 きっと俺も傍目から見たら同じような顔をしているんだろうな。そんなことをボーっと考えながら、ゲームの開始を待つ。


「えー、ゴホンゴホン」


 突然、スピーカーを通した咳払いが聞こえた。音の源は、広場の前方。ちょうど鐘つき堂の真下に作られた仮設ステージの上に置いてある直方体のスピーカーから聞こえていた。


「あー、あー、テストテスト。ただいまマイクのテスト中です。うん、いい感じかな?」


 合成機械を通したような、耳に障る声。低さで言えば男性だが、機械を通しているとなると本当にどんなやつが喋っているのか分からない。毎回のクイズの侵進行や出題は、この声がやっている。もう聞き慣れてしまった声だった。


「えー、住民の諸君。集まってくれてありがとう。私は〈幽冥の聖騎士〉だ。席が全部埋まっているところを見ると、遅刻者は居ないようだね。うっかりの時間ミスで命を失う人が出なかったことを、私は嬉しく思うよ!」


 愉快そうに嗤う声。そんな〈幽冥の聖騎士〉とは打って変わって、住民たちの間には重い沈黙が立ち込めている。


「それでは、今回もお知らせした通りやっていくよ。出題数は一題。解答ミス、そして解答を送信するのが一番最後になってしまった者には死を、それを免れた者には次回のクイズの参加権を与える――これでいいかな。それじゃあ、いくよ、問題!」


 〈幽冥の聖騎士〉と名乗る謎の声は、高らかにその問題文を読み上げた。


「『芸術は爆発だ』の名言と『傷ましき腕』、『太陽の塔』などの代表作で知られる芸術家の名前は……」

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