きらきら星顛末記 あるいは、あるアイドルの自殺未遂によせて

@Ono_ha_nemui

第1話

1.ニュース速報(2023/9/18 12:00配信)

 本日未明、人気アイドルグループ「for*C」のメンバー、佐藤凛駆(りんく)さん(19)が都内の自宅で倒れているのが発見されました。

 佐藤さんは病院に運ばれましたが、意識はあるということです。

 現場には遺書のようなものが残されており、警察では佐藤さんが自殺を図ったとみて当時の状況を調べています。


2.遺書

 誰かに何かを言われたから死ぬわけではありません。

 ただ、もう俺はここまでみたいです。

 どうか俺をアイドルのままで死なせてください。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 今までありがとうございました。


3.匿名リーク

 「for*C」は、芸能事務所「for* the future」に所属する4人組アイドルグループ。ファンネームはCからの連想、及び才能の種を育てていく存在であるとの意味で「seeds」。

 メンバーは春田幸希(23)、青野雄汰(20)、佐藤凛駆(19)、宮野聖(17)。

 プロデューサーはかつて女形の大衆演劇役者として一大ブームを巻き起こしたのち、ミュージシャン業に転じた篠原都香沙(つかさ)。リーダーはダンススキルが高く、ストイックな性格で知られる青野が務めている。

 for*Cは「cuteとcoolの融合」をコンセプトとしており、頭文字がグループ名の由来にもなっている。時にTikTokやInstagramで「バズった」ポーズを取り入れた可愛らしい楽曲と、アイドルの枠を超えた激しいダンス曲を交互に披露することが特徴。

 最新ミニアルバム「STAR」では、「キミと空を。」でファンが一緒に踊れる「ランランダンス」を披露した一方、「PRIDE OF C」においてはヒップホップダンスの世界大会で優勝した日本人ダンサーSYOMAがコレオグラファーを務め、メンバー同士のダンスバトルをコンセプトにした激しいパフォーマンスを見せた。

 佐藤の公式愛称は「凛くん」。可愛らしい楽曲の練習を主導する「cute班リーダー」を任されており、愛らしいルックスから繰り出される笑顔と養成所で鍛え上げられた表現力が魅力とされる。また、アイドルでありながら名門大学に通う経歴を活かし、複数のクイズ番組に出演。グループの知名度上昇に貢献していた。

 グループは2021年の結成以降、流行感度の高さと説得力のあるステージングで根強い支持を獲得。2023年11月には初の武道館コンサートを控えていた。 


 下記は、自殺未遂の報道直後にゴシップ誌「週刊好日」へ寄せられた、密かに録音されたメンバー同士の話し合いの文字起こしである。

 録音データが入ったICレコーダーは郵送で編集部に送られ、送り主の署名はなかった。

 録音の内容は、先頃自殺を図った佐藤の容色に対する話し合いだった。


 青野:ほら今体重計乗れよ

 佐藤:はい

 (沈黙)

 青野:増えてんじゃねえかよ!(破壊音)

 佐藤:はい

 青野:お前初日いつだと思ってんだよ、間に合わねえだろ

 佐藤:はい

 青野:お前cute班だろ?

 佐藤:そうです

 青野:その体型でキミ空とラバラバやんのかよ

 佐藤:すみません

 青野:謝るとかいいんだよ、やれよ

 佐藤:分かってます

 青野:このままだとお前ほんと死んで詫びるしかないけど、分かってる?

 佐藤:はい

 青野:殺すから、俺が殺すからな

 (沈黙)

 春田:(ため息)雄汰落ち着け

 青野:落ち着いてる場合じゃねえだろ

 春田:凛分かったって言ってるだろ、もうやめとけ

 青野:これまで頑張ってないからこの体型なんだろ

 春田:だから落ち着けって

 青野:今更頑張るって言われても信用できねえんだよ

 春田:気持ちは分かるよ。分かるけど、今凛責めて何も解決しねえだろ

 青野:解決とかじゃなくてさあ

 春田:な? 凛頑張るんだよな?

 佐藤:(沈黙)はい

 春田:じゃあもうこの話はここで終わり

 青野:凛お前ぜってーやれよ

 佐藤:はい

 青野:次はマジで許さねえからな

 佐藤:分かってます

 

 先頃自殺未遂を図ったメンバーをリーダーが語気も荒く詰問する場面。

 そのショッキングな内容は、アイドルファンのみならず一般人にも大きな衝撃を与えた。


4.宮野聖によるリーク

 「週刊好日」がfor*Cメンバーについての記事を掲載した翌日、宮野聖から直接編集部に「話をしたい」との連絡があった。

 すぐにインタビューが行われ、その内容は翌週の「週刊好日」に掲載された。

 以下は週刊好日web版に掲載された、インタビュー全文の書き起こしとなる。


 記者:本日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。

 宮野:よろしくお願いいたします。

 記者:チームメイトが救急搬送されたということで、お辛いかと思いますが、今のお気持ちはいかがですか。

 宮野:まずは本当に命が助かってよかったです。ただ、まだ心配で何も手につかないですし、どうしたらいいのか分からないというのが正直なところですね。

 記者:佐藤さんとの関係は。

 宮野:for*Cには練習を仕切る関係でcool班とcute班っていうのがあるんですけど、凛くん(佐藤)はcute班のリーダー、僕は班員でした。

 記者:他のメンバーよりは距離が近かった?

 宮野:そうです。僕のキャリアが浅かったので、凛くんが教育係みたいに色んなことを教えてくれて。

 記者:佐藤さんへの印象は。

 宮野:とにかく優しい人です。僕はテンパって同じことを3回くらい質問したりもしてたんですが、その度に丁寧に教えてくれました。

 記者:いい先輩だったんですね。

 宮野:僕が迷惑をかけてしまって謝ったときに、サラッと「cute班の絆そんなもんかよ」って言ってくれたりして。僕はそれがすごく嬉しくて。

 記者:なるほど。

 宮野:そういうことを言える人なんです。

 記者:情に篤い人だと。

 宮野:僕が少し慣れてきてからは、凛くんの方から相談してくれるようにもなって。先輩に対しておこがましいんですけど、戦友のように思っていました。

 記者:いい関係だったんですね。

 宮野:そう思いたいです。


 記者:先の報道によると、青野さんが佐藤さんを厳しく𠮟責する場面があったとのことですが。

 宮野:(沈黙)雄さん(青野)も苦しいと思うんですけど、今日は全部話すつもりで来たので。そういった場面は何度もありました。

 記者:それは体型のことで。

 宮野:そうです。

 記者:佐藤さんの体型はアイドルとしては難しいと。

 宮野:凛くんは筋肉もつきやすいんですけど、その分脂肪もつきやすいタイプみたいで。体型の管理にはいつも悩んでいました。

 記者:「死んで詫びろ」のようなきつい言葉がかけられていたようですが。

 宮野;あの言葉だけがクローズアップされてしまっていると思うんですけど、あれは僕たちの中で合言葉みたいなものなんですよ。

 記者:合言葉というと。

 宮野:やっぱりデビューしたての頃とかは、メンバー、主に僕なんですけど、もどうしたらいいかわからない部分があって。僕なんかはレッスン中に泣いちゃったりもして。

 記者:なるほど。

 宮野:その時に雄さんが、どれだけのスタッフさんやファンの方が僕たちに関わってくれているのかみたいな話をして。やらないんだったらその人たちに死んで詫びるしかないぞ、みたいなことを言ったのが最初だったと思います。

 記者:以前から使われていた言葉だったと。

 宮野:そうです。

 記者:それが定着していった。

 宮野:はい。メンバー同士ふざけている時なんかも「死に詫びな」とか言ったりもしていて。そういう言葉が日常的に出ること自体、健全じゃなかったのかも知れないと今は思いますけど。

 記者:他に厳しい叱責のようなものはあったんでしょうか。

 宮野:最初は叱責というか注意だったんですけど、途中から叱られるだけではなくなったというか。

 記者:というのは。

 宮野:僕たちは合宿所に住んでいて、個人の部屋はあるんですけどリビングは共用なんですね。そこに体重計置いて、僕たち4人が全員いる時に目の前で乗らせたり。

 記者:その頻度は?

 宮野:ほとんど毎日だったと思います。その度に僕らも呼ばれたり。で、昨日より増えてたらまた怒る、みたいな。

 記者:過酷ですね。

 宮野:あと、リリース前になるとレッスンが長いんですけど、浮腫むからって凛くんは水飲んじゃダメだったりして。

 記者;水を?

 宮野:そうです。

 記者:昭和の野球部みたいなことをされていたと。

 宮野:水ってちゃんと飲まないと逆に浮腫みやすくなるみたいなんですよ。それでもそういうことをしていました。

 記者:止める人はいなかった?

 宮野:(目を伏せる)今更後悔しても遅いんですけど、僕は養成所に入ってすぐデビューが決まって、歳も一番下で。おかしいと思っても言えなくて。

 記者:そうだったんですね。

 宮野:それと、雄さんは厳しいんですけど、それにも理由があって。

 記者:というと?

 宮野:篠さん(篠原都香沙/for*Cプロデューサー)がルックスに厳しい方なんです。アイドルなので当たり前だとは思うんですけど、やっぱり演劇の世界でも同じくらい体型には注目されるみたいで。

 記者:舞台出身の方にとっては気になると。

 宮野:そういう面で、雄さんもリーダーとしてどう対応していくか悩んでいた部分はあると思います。

 記者:ある意味で板挟みになっていたと。

 宮野:そうです。

 記者:篠原さんは青野さんが厳しい制限を課していることは知っていた?

 宮野:知ってたと思います。積極的にやれって言ったかどうかまでは分からないですけど。

 記者:恐らく認識はしていたと。

 宮野:はい。なので、今の雄さんだけが責められている状況は違うと思います。

 記者:そういった状況が自殺未遂につながったということでしょうか。

 宮野:(一瞬天を仰ぐ)本当に全部話すつもりで来たので、言います。

 記者:お願いします。

 宮野:叱られるだけじゃなくて。凛くんは病んでしまっていて。

 記者:病むというのは。

 宮野:食べたものを吐いちゃうんです。そういうことをしていて。

 記者:所謂摂食障害というものでしょうか。

 宮野:そういう名前になると思います。

 記者:何かきっかけみたいなものは。

 宮野:雄さんのもそうなんですけど。凛くんはエゴサ(編集部注:エゴサーチ。自分について検索すること)を結構するんですけど、そこにまで「太った」って書かれてたのがショックだったみたいで。

 記者:ファンの方の意見は尚更堪えると。

 宮野:で、いくら食事に気を遣っても痩せられないから、もう何も食べたくないって言い出して。

 記者:拒食状態になったということでしょうか。

 宮野:そうです。

 記者:それが過食に転じたと。

 宮野:そうですね。やっぱりお腹が空いて無理だってなったときに、食べてすぐ吐くしか解決策が見つけられないって言ってて。

 記者:痛々しい話ですね。

 宮野:でもそれでずっと痩せていられるわけでもないんですよ。

 記者:吐いていても太ってしまう?

 宮野:そういうことがあるみたいで。

 記者:なるほど。

 宮野:吐いてもコントロールできない状態で、体型のことを責められるのはかなり辛かったと思います。

 記者:良し悪しはともかく、できる限りのことをしているのに結果が出ないと。

 宮野:そうです。

 記者:そして自殺未遂になってしまった。

 宮野:凛くん、その前日に篠さんに呼ばれてて。何話したかは教えてくれなかったんですけど、あれだけアイドルが好きな人が初めて「辞めたい」って言ったのが、(涙を拭う)すみません。

 記者:摂食障害のことは皆さんが知っていた?

 宮野:凛くんからは僕にしか話してないと思います。でも一緒にいたら違和感は覚えると思うんですよ。だから察している人はいたかも知れません。

 記者:宮野さんからしてもそれは分からないと。

 宮野:分からないというより、暗黙の了解だったような気がします。

 記者:というと。

 宮野:みんな凛くんの状態がよくないのはわかっているんですけど、僕たちはこういう仕事じゃないですか。体調を崩してでも痩せるのが当然だよね、みたいな空気は正直ありました。

 記者:誰かが手を差し伸べるような雰囲気ではなかったと。

 宮野:自分がそうできなかったことを含めて、そうです。

 記者:個人の健康より仕事が優先と。

 宮野:そういうことになると思います。

 記者:自殺未遂の報を聞いたメンバーの皆さんの反応はどうだったんでしょうか。

 宮野:雄さんは立てないくらい泣いてました。遺書も警察の人に持っていかれちゃったから読んでないのに、「俺のせいだ」ってずっと言ってて。マネージャーさんに支えられて漸く病院行って。病院の廊下でご家族の方に土下座して。

 記者:責任を感じていたと。

 宮野:幸希さん(春田)は僕らのために気を張ってくれてたと思います。極力冷静にというか。

 記者:宮野さんは。

 宮野:正直あまり思い出せないです。悪い夢でも見てるみたいに現実味がなくて。

 記者:無理もないですよね。

 宮野:身体の震えが止まらなかったことだけ覚えています。手が震えてスマホを持てないんですよ。こんなことあるんだなと思いました。


 記者:宮野さんの他にも告発者が出ていますが。

 宮野:読みました。僕の他にもおかしいと思う方がいらっしゃったんだなという気持ちです。 

 記者:宮野さんはどういった気持ちで取材に応じてくださったのでしょうか。

 宮野:断片的な情報が飛び交うよりは、本当のことを言った方が、逆にみんなを守ることになるのかなとか。

 記者:なるほど。

 宮野:大切な先輩のことだから、本当のことを伝えたい、が一番ですね。

 記者:そうですよね。

 宮野:僕が言えることじゃないんですけど、これで本当に全部なので。他に何も出てこないので、関係者の方への過度な取材は控えてほしいと思います。


 記者:最後に何か言っておきたいことは。

 宮野:一つ確実に言えることは、みんなアイドルって仕事が大好きなんです。メンバー全員その気持ちは同じだったと思ってて。

 記者:はい。

 宮野:雄さんが落ち着いてから、「俺はどうすればよかったんだろうな」ってぽつっと言ってたんです。僕も同じ気持ちです。

 記者:本日はありがとうございました。

 宮野:ありがとうございました。


5.ファンによる匿名ブログ

 マスコミの報道が加熱するに伴い、疑問と不安の声はファンや一般の市民にも伝播していく。

 下記は匿名ブログサービスに投稿され、アイドルファンの間で拡散された記事となる。


 私はfor*C、佐藤凛駆の熱狂的なファンだ。

 「Onyx」の頃から毎回特典会に通って、何枚チェキを撮ったか分からない。zeppは全ツしたし、武道館が決まった時は目が腫れ上がるくらい泣いた。私より命懸けてるseedsはたくさんいると思うけど、私も自分ができる全部をふぉしのオタ活に注ぎ込んできた。

 ふぉしに、凛くんに救ってもらったからだ。

 私はずっと摂食障害を患っていた。学生の頃から始まって、夢だったライターの仕事についてからも治すことができなかった。誰にも言えなくて、でも太るのが怖くて、いつも作り笑いを顔に貼り付け続けていた。

 食べたくなくて、けどお腹は減って、いつしか死にたいとすら思うようになっていた。

 そんな時に凛くんに出会った。

 友達に勧められて、初めて聞いた曲は「lover×lover」。センターに立って、透き通るようなグレージュに髪を染めて、パステルカラーのもこもこパーカーで踊ってる子に目が行った。言うまでもなく、それが凛くんだった。

 白い歯の輝く笑顔が眩しくて、次々に指ハートとギャルピースを作るサビの振り付けがよく映えて、可愛い子だなと思った。そのあと公開されたばかりだった「Onyx」を見て、さっきの可愛い子が真っ黒な衣装とメイクでバチバチに踊ってることに度肝を抜かれた。

 すぐググって調べて友達に連絡して、特典会に行くことになった。

 特典会で凛くんの、色硝子みたいに色素の薄い鳶色の瞳を見て。ふわっと包み込むみたいな優しい笑顔に触れて。「来てくれてありがとう」って柔らかな声に触れて。芸能人に会うのなんか初めてだった私は、あまりの愛おしさにに舞い上がった。

 また行きたいと思って、だから、次の特典会までは死ぬのをやめようと思った。

 シングルのリリースが発表されたら、フラゲ日までは生きていこうと思った。

 ツアーが発表されたら、楽までは生きようと思った。

 凛くんの出るクイズ番組の放送が発表されたら、それを見るまでは死ねないと思った。

 その繰り返しだった。

 アイドルオタクは体力勝負だ。凛くんに会いたい。そのために、ちゃんとご飯を食べよう。いつしかそう思えるようになっていた。

 

 凛くんには不思議な魅力があった。

 多分人気No.1は雄ちゃんだったと思うけど(幸くんがよく冗談でやっかんでいた)、凛くんには濃いオタクが多かった気がする。

 cute班で可愛いんだけど、cool曲もこなしてしまう。元々養成所の頃からスキルの水準は高かったみたいだけど、見ているとぞくっとすることすらあった。

 「alexandrite」、好きだったなあ。雨にうたれながら踊るMV、何度見たか分からない。

 アレキサンドライト、の名の通り、あの曲は途中で曲調が何度もガラッと変わる。

 儚さから力強さへ、また儚さへ。コンセプトが複雑に絡まるあの曲を踊りこなすのは相当に難しかったと思う。でも、凛くんはそれをやり遂げていた。

 喰い殺すみたいな眼力でこちらを睨めつけたかと思えば、泣き出しそうなひとみで切ない愛を歌う。そのギャップにやられる凛seedsは多くてSNSはお祭り騒ぎになったし、他ならぬ私がその一人だ。

 cute曲もそう。「lover×lover」ではパジャマパーティーのリラックスした表情、「キラキラ」では学生コンセプトの希望に満ち溢れた笑顔、「キミと空を。」では少しせつなさを滲ませた青春系。少しずつカラーの違う曲を、凛くんは明確に演じ分けていた。

 多分、凛くんは頭がいいからコンセプトの消化能力が高かったんだと思う。みんなのボーカルを見ていたのは幸くんだけど、歌詞の読み合わせを仕切ってたのは凛くんだって聞いたことがある。

 本当に、ふぉしに必要な唯一無二の才能だった。


 凛くんだけじゃない。

 私はふぉしのパフォーマンスが好きだった。

 雄ちゃんの、キャラに合わないって言われながらもニコニコ歌って踊るcute曲が好きだった。

 ただ立っているだけでも伝わる狂気すら纏って、こちらをぶん殴るみたいに圧倒してくるcool曲が好きだった。

 幸くんの、「そろそろ年齢的に厳しい」って自虐しながらもぶりっ子をやりきるcute曲が好きだった。

 ダンススキルとボーカル力に裏打ちされた、全員喰ってやるとでも言いたげな気迫に溢れたcool曲が好きだった。

 ひじりんの、もうこういう振り付けをやるために生まれてきたんじゃないかと思うくらいあざとくて可愛いcute曲が好きだった。

 最初は必死でついていっていたのに、いつの間にかキリングパートでセンターを張れるくらい上達したcool曲が好きだった。

 4人のぴったり息のあった、指先から爪先まで揃ったダンスが好きだった。

 高音と低音がばっちりハマる、歌声のハーモニーが好きだった。


 ふぉしのキャラクターも好きだった。

 雄ちゃんの、リーダーなのにおバカキャラで、でもバカって言われるとムキになって否定するお決まりの流れが好きだった。

 ボケ倒さないと気が済まなくて、幸くんに半ギレで止められるまで滑り続けるところが好きだった。

 幸くんの、MCをしながらボソッと出してくる毒舌ツッコミが好きだった。

 時折目を伏せた表情から感じる、どこか何を考えているのか分からないミステリアスな雰囲気が好きだった。

 ひじりんの、突然とんでもない爆弾発言をするところが好きだった。

 15歳でこの世界に入ったのに、下手をすると歳上メンバーより社会常識があってたまに呆れているところが好きだった。

 そして凛くんの、ひとつひとつの言葉選びにも聡明さが伝わる理知的なところが好きだった。

 それなのに、大真面目にずれたことを言ってはメンバー総出でツッコまれる天然なところが好きだった。


 でも、それは間違っていたのかもしれない。


 わかっていた。

 自分も摂食障害だったから、分かっていた。

 凛くんが追い詰められていること。多分吐いていること。

 でも見ないふりをした。

 誰も表立っては口に出さなかったけど、裏垢で度々話題になっていたのも知ってた。

 それでもおかしいって言えなかった。無理矢理目を瞑り続けた。

 ふぉしの存在が救いだったから。

 ふぉしを応援したかったから。

 4人のまま変わってほしくなかったから。

 分かってる。ファンがアイドルにできることなんてそうない。アイドルが一番苦しいときに私たちにできることは、変わらず応援し続けることしかない。いつだって変わらない歓声を届け続けることしかない。

 それでも考えてしまう。そうすることが正しかったのか。

 凛くんがああなってしまう前に、私たちになにかできることはなかったのか。

 いくら考えても今の私には分からない。

 でも一つだけ言えることがある。

 彼を追い詰めたのは私であり、これを読んでいるあなただったのかも知れない。


6.謝罪

 「週刊好日」に宮野のインタビュー記事が掲載された翌日、for*Cの所属事務所for*the futureより青野及び篠原の声明が発表された。


 ◆青野雄汰 謝罪文

 佐藤凛駆の件で沢山の方にご心配をおかけしており、申し訳ありません。

 報道されていることはおおむね事実です。

 僕の言動や行動に、佐藤を追いつめるものがありました。

 いくら謝っても謝りきれません。

 「もっとグループを大きくしたい」との思いで、正しい道を走ってきたつもりでした。

 いつの日からか必死になりすぎて、目の前のメンバーも人間なんだということすら忘れてしまっていました。

 「アイドルはこういう仕事だから仕方ない」と思い込み、どんな手段も許されると思っていました。

 あまりに大きなものを失ってから、ようやく間違いに気づきました。

 どうしようもなく後悔しています。


 それで許されるわけではないことはわかっていますが、僕は本日をもって芸能界を引退します。

 優しい佐藤はこの話を聞けば、また自分を責めてしまうのではないかと思いますが、

 それでもこれ以上ここにいることはできません。

 これまで応援してくださった皆さん、本当にありがとうございました。

 そして、期待を裏切ってしまい本当に申し訳ありませんでした。


 ◆篠原都香沙 謝罪文

 この度はお騒がせしており申し訳ありません。

 プロデューサーとして責任を感じております。

 佐藤の体調が回復するまで、事務所として行える支援は引き続き続けていきたいと思っております。

 今後ともfor*the futureの所属タレントへの応援をよろしくお願いいたします。

 

 また、同時に宮野の事務所退所及び、春田については今後ソロ活動を行っていくという方針が発表された。


 青野がパワーハラスメントの存在を認めたことにより、インターネット上での議論はますます紛糾した。

 話し合いの録音、及び宮野のインタビュー記事などの暴露情報が現れない限り、事務所は青野を芸能界に残し続けたのでないかと憶測が飛び交い、

 事務所の対応は遅きに失したという批判が巻き起こった。

 また、篠原の謝罪文が定型文に終始したことも注目され、メンバーにすべての責任を押し付けての謝罪逃れと追求された。

 遂にはアイドルという文化そのものに対する否定も見られるようになり、論戦は過熱する一方であった。


以下、SNS引用。

 ■雄seedsだけど凛seedsに土下座して謝りたい。土下座して済むことじゃないけど。オタクとしても心の整理がつかない。

 ■降ります。ってもう降りるも何もないんだけど。雄ちゃんのストイックなところが好きだったけど、あんなことしてると思わなかった。幻滅、って言葉じゃ言い表せないわ。

 ■アイドルとか好きじゃないけどひいたわ。未だに昭和のスポ根みたいなことしてるんだね。今令和だよ?

 ■弱冠20歳の若者に全ての責を負わせることには違和感がある。事務所サイドは何をしていたのか? アイドルを預かるものとして責任があったはず。

 ■篠原さん、ことの重大さ分かってないの? 応援よろしくお願いしますじゃねえんだよな

 ■篠原マジで胸糞だな

 ■遅いよ。好日が出る前に発表できたんじゃないの? もしかして隠蔽しようとしてた?

 ■好日の記事が出なかったらこいつ事務所に残ってたってこと? 意味分かんねーな

 ■この青野雄汰ってやつの裏垢特定したらいいの?

 ■イケメンざまあ(笑)

 ■告発したやつだけまともだっただろ。まともなやつが辞めて腐ったやつが残る。まさに日本の縮図。

 ■そもそもアイドルって文化が気に入らない。これを機に全部解散したら?

 ■ルッキズムが批判される中、日本のアイドルという文化は時代錯誤だと感じる。

 ■アイドル業界のパンドラの箱が開いたって感じ もう燃え尽きるまで燃えるしかないね


 その後、世論の猛反発を受け、for*the futureは再度声明を出し、篠原都香沙の契約解除を発表。

 場当たり的な対応に終始しているとして、さらなる批判を呼んだ。


7.取材

 青野、篠原の謝罪文が公開された翌日、それまで沈黙を守っていた春田幸希が事務所を訪れ、取材に応じた。

 インタビュー内容は下記。


 記者:今どんなお気持ちですか。

 春田:申し訳ない気持ちでいっぱいです。僕が最年長なので。もっと何かできることがあったんじゃないかとずっと考えています。

 記者:佐藤さんに関しては。

 春田:僕も励ましのつもりで色々と声をかけることがありました。結果的に凛を追い込んでしまったのかもしれないと後悔しています。

 記者:青野さんは事務所を退所されるそうですが。

 春田;雄汰に対しても申し訳ない気持ちがあって。グループのことを彼に全部背負わせてしまったなと。

 記者:リークが立て続いて行われましたが。

 春田:聖をそこまで追い詰めてしまったのも僕らだと思っています。最初のリークは誰なのか分からないですけど、おかしいと思われることを僕らがしていたのは事実なので。責めることはできないなと思っています。

 記者:最後に何か言っておきたいことは。

 春田:本当に申し訳ありませんでした。僕も凛の回復のために何かできることがあれば精一杯対応していきたいと思っています。


8.ニュース速報(2023/10/21 18:00配信)

 人気アイドルグループ「for*C」メンバーで、治療のため入院していた佐藤凛駆さんが今日午後退院しました。

 佐藤さんは事務所を退所し、療養を続けるとのことです。

 佐藤さんが所属していた芸能事務所「for*the future」は声明を発表し、引き続き再発防止策の策定に努めていく旨を述べました。


9.SNS

 退院後すぐ、佐藤のSNSが更新される。

 内容は下記。


 ご心配ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。

 暫く休んで、僕の心は壊れていたんだと漸く分かりました。

 これから壊れた心と身体を治します。

 どれだけの時間がかかるか分からない。

 待っていてくださいなんて言えない。

 それでも、待っていてくださるとうれしいです。

 (@suger_rink 2023/10/21 23:07 )


 一つだけお願いがあります。

 今回のことに関して、僕は誰も恨んでいません。

 色々な情報が出ていると聞いていますが、

 どうか特定の誰かをバッシングすることはやめていただけないでしょうか。

 僕の、for*Cメンバーとしての最後の願いです。

 よろしくお願いいたします。

 (@suger_rink 2023/10/21 23:12 )


10.それでも

 それでも、アイドルを愛する者たちには揺るがないものがある。

 下記は5と同様、ファンにより拡散された匿名ブログ。


 私は凛seedsだ。

 仕事が忙しくても、10年付き合った彼氏と別れても、つらいときに凛くんはいつもそこにいてくれた。そこにいて、キラキラの笑顔で生きる希望をくれていた。

 私は脳天気な性格だけど、やっぱり死にたいくらい辛いことはあって。そんな時凛くんの存在にどれだけ助けられたか分からない。

 冗談抜きで、命の恩人だと思っている。


 確かに凛くんは体型管理が苦手なんだろうなとは思ってた。

 「Emerald」の時が一番ぽっちゃりしていたと思うけど、その後も痩せたり太ったりを繰り返していた。苦労してるんだろうなっていうのは、多分凛seedsなら口に出さなくても分かってたと思う。

 雄seedsの子とかに、「他メンの足を引っ張ってる」って言われてるのも知ってた。でも、推しに甘いと言われようが、私は凛くんがそこにいて笑っていてくれるのならそれでよかった。

 報道があるまで、ふぉしの内部がそんなことになっているなんて知らなかった。

 雄ちゃんへのバッシングがすごいことになっているけど、seedsなら雄ちゃんはグループのことを誰よりも愛していたから厳しくしたんだって知っていると思う。でもやっぱり、なんでそこまで、としか思えない。

 幸くんも後悔してるのは分かった。でもなんでもっと早く気付いてくれなかったんだろう。本人も言っていたけど、雄ちゃんに背負わせすぎずに彼を止められたのは、幸くんだけなのに。

 最年少の、勇気を持って告白してくれたひじりんにそんなことを言うのは酷だって分かってる。でもひじりんだけは色んなことを知ってた。それなら誰に助けを求めてでも、凛くんを支えてほしかった。

 何よりプロデューサーと事務所の対応に憤りしかない。

 何故止めてくれなかったのか。なんで私の自慢の推しをそこまで思い詰めさせたのか。なんで大人がしっかりしてくれなかったのか。私たちの大切な推しで、メンバーなのに。

 誰に何をどう怒っていいのかわからない。

 一番腹が立っているのは、何も気づいていなかった自分自身に対してかもしれない。


 凛くんの事件を受けて、世間は今アイドルという職業へのバッシングで溢れ返っている。

 私も、本当はアイドルなんて職業を否定しなくてはいけないのかもしれない。 

 それが大切な推しを、凛くんを苦しめたんだから。

 でも私にはどうしてもそれができない。

 それだけは、どうしてもできない。

 私はfor*Cに、アイドル佐藤凛駆に救われたから。

 何より、ずっと彼を見てきた私は凛くんがどれだけこの仕事を愛していたか知っているから。


 これから先どうなるのかなんて分からない。

 凛くんが言っていたとおり、どれくらい待てばいいのかも分からない。

 でも、凛くんが待てと言うなら私はずっと待つ。

 凛くんに救われた命だから。


 佐藤は10/21付でfor*the futureを退所したものの、事務所側はファン感情に配慮する形で、ファンレターやプレゼントの郵送を年内まで受け付けると発表。快復を祈る千羽鶴や復帰を願う手紙が多く寄せられ、鶴を折る動画がSNS上で拡散されるなど、話題となった。

 for*Cが武道館コンサートを行う予定だった2023年11月には、払い戻されたチケット代を自殺防止を呼びかける団体へ寄付する動きが広がった。

 また、コンサート当日の予定だった11/18 23:00より、SNSでは佐藤への応援を伝えるため、特定のタグを付けた投稿を一斉に行う、所謂タグイベントが開催された。

 (#凛くんに送ろうキラキラパワー)

 下記は、タグがつけられたSNSでの投稿を抜粋したものである。


 ■凛くん大好き。いつもありがとう!

 ■闘病大変だろうけど、凛seedsはずっと待ってるからね。

 ■凛くんの笑顔に何度救われたことか。凛くんのお願いだったら聞かなきゃ嘘だよね。

 ■まずは心と身体を休めてほしい。復帰はそれからでも全然遅くないからね。

 ■凛seedsでいられたことを誇りに思う。最高の推し。 

 ■愛してるよ! それだけ。 

 ■また絶対ステージで会おうね。

 ■どんなに時間がかかってもずっとそばにいるよ。

 ■大学には通えてるのかな? 暫くはキャンパスライフを楽しんでほしい。これまで辛かった分、楽しいことをいっぱいしてほしいな。

 ■いつも凛くんの幸せを祈っています。届きますように。

 ■ずっとひた走ってきたから、今はゆっくりしてね。大丈夫、みんな凛くんのこと忘れたりしないからね。

 ■凛くんしか見えません。今までもこれからも。

 ■こんなに沢山のseedsがついてる凛くんは無敵だよ!

 

 

 それでも、アイドルという文化は潰えなかった。

 それはアイドルという職業人を支え、励まし続けてきたファンの声ゆえだった。


11.現在地

 その後。

 春田幸希は唯一for* the futureに残留し、現在はシンガーソングライターとして活動中。楽曲がtiktokで多く利用され、ライブハウスでの単独ツアーを成功させるなど活躍を続けている。

 宮野聖はアイドル事務所「office青藍」に移籍し、感動共有型アイドルグループ「Documents」のリーダーとしてアイドル活動を行っている。

 青野雄汰は芸能界を引退し、現在は一般企業に勤めている。

 そして僕、佐藤凛駆はアイドルに復帰することを目指し、目下療養中である。

 

 今回、主治医に治療の一環で自分史を書いてみることを勧められた。

 だが、自殺未遂に纏わる過程を自分事として捉えることはまだ苦しかった。

 その旨を訴えたところ、「自分を他者に見立て、三人称の文章で書いてみる」ことを提案された。

 言われた通りにしてみたところ、意外にもなんとか書き上げることができた。

 スケジュールの合間を縫って大学のレポートを仕上げていた経験と、徹底的にエゴサーチを行って自分に関する情報を保存しておく癖が生きた。

 主治医に提出したところ、今後表に出てゆく覚悟があるなら、これは世に問うべき内容だと言われた。

 僕もまた、いつか自分の口から説明しなければいけないことだと分かっていた。

 故に、このブログを作成した次第である。

 

 僕も、for*Cのみならずアイドルという存在へのバッシングが起こっていたのは知っていた。

 だが、ファンの方が書いてくださったように、僕はアイドルという職業を愛している。

だからあの事件までアイドルを続けていたし、今も復帰を目指している。

 僕が受けた仕打ちのように、確かに芸能界には理不尽が溢れている。

 それでも僕は、アイドルでいたい。

 

 一つ謎がある。

 僕が雄さんに叱責されている、最初のリーク。

 あのリークを行ったのは僕ではない。

 そう推測されているのは知っているし無理もないとは思うのだが、あの頃の自罰的だった僕に先輩を告発するなどという真似ができるわけがない。そもそも過度なダイエットで頭が働いておらず、録音するという発想自体がなかった。

 合宿所のリビングでのことだったので、スタッフさんも同席していない。確か個人仕事で聖もおらず、正真正銘、3人きりでの話し合いだった。

 誰がなんのために録音をしたのか。

 そして、誰がなんのためにあのタイミングで「週刊好日」にリークを行ったのか。

 誰が、誰を陥れようとしたのか。

 想像することはできるが、もう確かめることもできない。真相は闇の中だ。


 応援してくださっていた方々へ。

 あんなことをして本当にごめんなさい。

 沢山心配をかけて、苦しませて、自分を責めてしまった方までいらっしゃることを知っています。

 申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 あの時の僕にはそれ以外の術が思いつかなかった。

 でも今の僕は、どんなに追い詰められたとしても、別の手段をとる

ができたことを知っています。

 もっと早くそれに気付けばよかった。

 自分の選択を後悔しています。


 僕は元気です。

 少しずつ前に進んでいます。

 でも、あの世界に戻るにはもう少し時間がかかりそうです。

 もう少しだけ待っていてくださると嬉しいです。


 最後に、僕の最大の盟友、宮野聖のブログを引用してこの話を終わろうと思う。

 最悪の形でパンドラの箱を開けた僕たちに残された、最後の希望として。


12.宮野聖ブログ

 おはどきゅ! 目撃せよ! 聖です。

 今日は昔の事務所のことを少し。


 昨日、元for*Cの佐藤凛駆くんに会ってきました。

 前の事務所を辞めたことと、Documentsの立ち上げに参加したことを報告しました。

 まだ少し体調に波があるみたいだから短い時間でお暇したけど、俺の前では元気そうでした。

 凛くんの色んなことを勝手にアウティングしてしまったことを謝りました。

 「俺が言えなかったことを聖が代わりに言ってくれた。ありがとう」と返されました。

 本当にずっと変わらずに優しい人だと思いました。涙が出そうだった。

 あとはやっぱり、ファンの方に忘れられてないかがすごく不安みたいでした。

 「どんな形でも早く戻りたい」って言ってたけど、焦っちゃだめなのは分かってるって。


 ねえ凛くん。

 俺、Documentsのリーダーになったよ。

 泣き虫ひじりんだった頃の俺からは想像できないでしょ笑

 雄さんも幸希さんも元気にやってるよ。

 だから凛くん大丈夫だよ。


 ねえ凛くん、俺思うことがあるんだ。

 俺たちはこうして変わっていくんだなって。

 勿論こういう仕事だから、つらいことがあるのは当たり前だと思う。

 レッスンはいっつも午前様だし、深夜の稼働も多いし、ステージでミスすれば超怒られるしね笑

 でもきっと、この業界には理不尽なことがまだまだたくさんあって、

 もっと言えば、業界に限らずこの世にもたくさんあって。

 そういうことの一つを凛くんが命を懸けて教えてくれたんだなって思う。

 今の事務所さ、定期的に管理栄養士の人が来てくれるんだ。

 凛くんの事件を知って(慌てて笑)契約したんだって。

 すごく助かってる。

 俺あんまり自炊は得意じゃないけど、教えてもらいながらなんとかやってるよ。


 Documentsでは俺リーダーだからさ、みんなに教えたり、時には怒ったりしないといけないこともある。

 素でめちゃくちゃ腹立つことも、たまにある笑

 でも、それはおかしいと思ったら教えてくれってプロデューサーさんにも頼んでるし、メンバーのみんなにも直接言ってる。

 ちゃんと話し合おうって。

 そうできる雰囲気にするのも俺の仕事だと思ってる。

 それが目の前で凛くんの事件を見た俺の責任だから。

 変わるんじゃなくて、変えてくよ。

 だから安心してね。

 

 凛くん、生きていてくれてありがとう。

 いつまでも待ってるよ。

 いつかまた絶対同じステージに立とうね。


─────────


 ありがとう、聖。

 お前はいつも俺に優しいって言ってくれるけど、俺は本当に優しいのはお前だと思ってるよ。

 ステージの上で、また会おう。




(202x xx/xx追記)

13."C"-ommitment


 そこは小さな会場だった。

 長い長い時間がかかった。

 忘れ去られるには充分な時を経て、それでも待ち続けてくれる人がいた。

 「彼」はその人たちに会うことを支えに、つらく苦しい期間を乗り越えた。


 会場のあちこちから嗚咽が聞こえる。

 涙混じりの、「おかえりー!」との声が飛ぶ。

 そして「彼」は笑って告げる。

 「ただいま」



参考URL

摂食障害治療 おすすめクリニック・病院

過食嘔吐について【過食嘔吐は太る?痩せる?】

https://www.sessyokusyougai-clinic.com/sp/ed/fat.html

2023/9/7閲覧

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きらきら星顛末記 あるいは、あるアイドルの自殺未遂によせて @Ono_ha_nemui

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