※ 第11話 裏切り

「今一歩を踏み出せば全てから解放される。

借金もヤクザと関わっていた過去も綺麗さっぱり無くなって普通の生活に戻れるのよ」



気付いたら私を抑える腕は無くなり、自由を取り戻していた。

ジッと女郎蜘蛛が弄んでいる鍵を見つめる。



「ほ、本当に言う通りにすれば……この鍵はくれるんですね……?」


「えぇ。勿論よ」


「その後の安全は? 首輪を外して逃げたとしても、追いかけられて捕まったら意味無いじゃないですか……!」


「安心なさい。私達は追わないし探さない。

それは鳳組や他の組織もそうよ。私は大組織を動かすネタ持ってるからね」


「……約束、ですよ?」


「えぇ、約束。こう見えても約束は守るタイプなのよ?」


「分かり、ました……」



私は一歩踏み出す。

高嶺様の顔が恐怖で引き攣る。

あぁ、でも…でも……もう、引き返せないんです……!



「う、ああああああぁぁっ!!」


「んぐ……っ⁉︎」



高嶺様の薄いお腹を思いっきり蹴り上げた。



「ああぁぁぁっ! お前、お前のせいでえぇぇええぇぇぇぇっ!!」


「ん"っ、ご……っ」



手足を縛られ、猿轡で碌に悲鳴すら上げられない高嶺の体をひたすら蹴る。

頭を踏む。踵で頰をグリグリと踏み躙る。



「んん"ぅぅっ!」


「ほら、いつもみたいに生意気な口を叩かないんですか!

私の人生を滅茶苦茶にして! 好き勝手に支配して、弄んで、その目的が代用品? ふざけるな……!!」



高嶺の顔面を何度も踏みつける。

抵抗出来ない高嶺がひたすら暴力を受け続けるその光景に女郎蜘蛛は愉快そうに笑っていた。


5分程経っただろうか? 息を切らしてハァハァと興奮していた私はふと冷静になり……床に横たわる小柄な少女に気が付いた。



「あ……私、は……」


「ふふ、凄いわねひな子ちゃん。まさか本当にやり遂げるなんて」


「……っ! か、鍵! 鍵ください……!」


「焦らないの。はい」


「あぁ!」



女郎蜘蛛が投げた鍵を這いつくばりながら震える手で拾い上げる。

あぁ、良かった。これで…これでやっと……



高嶺様をお助けできる。



「お前、何してる!」


「は、離してください! 首輪を外した人は逃してくれる約束の筈です……!」



高嶺様の首輪を外した瞬間、手下の人に抑え付けられた。

精一杯抵抗するけど振り解けない……まだ高嶺様は縛られてるのに……!



「辞めなさい、銀。確かに私は約束した。その手を離しなさい」


「……はい」


「ひな子ちゃん、このハサミを使いなさい」


「……どうも」



投げられたハサミで高嶺様の手脚を縛る結束バンドを切り、猿轡も外した。



「けほ、けほ……ひな子……」


「高嶺様! 蹴ってごめんなさい! 酷い事をしてごめんなさい……!!

でも、鍵を手に入れるには……こうするしかなくて……!」


「分かっています……ですが私を助けるのではなく、ひな子が逃げるべきでした。貴女は本来無関係なのに……」


「そんな事ありません! 私は奴隷で高嶺様はご主人様なのですから」


「ひな子……」


「さぁ、行ってください。あぁ、裸では出られませんね……私の服を着ていってください!」


「待ちなさい」


「⁉︎ 追わない約束ですよ⁉︎」


「えぇ、約束よ。でもそれは貴女も約束を守ればの話。

首輪を外された者はこの時限式手錠で一時間後に逃げる事を許される。

高嶺ちゃんはこの手錠を付けなければいけない。

あぁ、勿論ひな子ちゃんは逃さないわよ?」


「……はい」


「ふふ、良い子ね。……脱ぎなさい」


「くっ……」



女郎蜘蛛に命じられるまま服を脱ぐ。

部下の人達が私の手足を結束バンドで縛る。

高嶺様も足を縛られて、手錠を掛けられた。

少し離れた所にハサミも置かれてるから、一時間後に逃すというのは本当……の筈。



「よっ、と」



私は抱えられてスーツケースに横たえられる。



「最後の挨拶ぐらいはさせてあげる」


「……高嶺様、どうかご無事で」


「ひな子……っ、必ず助けにいくから……!」


「眠れ」


「ん、んぅ……」



部下の人にハンカチを顔に押し当てられて、意識、が……


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