The box



自分の存在を

立場を

感情を

なにかにカテゴライズするのが好きではない


私は28歳で 世の中にはアラサーと名乗る者もいるのだろうが

その言葉は使わないと 決めている


あるときフェイスブックで

「子供部屋おじさん」という言葉を目の当たりにした


社会人になっても実家で暮らすひとのことを指しているらしい


ああ 

なんて残酷なことばなのだろう


一体何のために だれが そんなことばを生み出すのだろう


あるいは

わたしには残酷と感じるが

多くのひとには残酷と感じないのだろうか


刺激の強い言葉を生み出すことが もはや快感になっているのだろうか



わたしにとってこの世界の言葉は

かなしくちいさなナイフを振り回すような

ものばかりだ



外に出れば耳を塞ぎたいし

実際に耳栓をして街を歩くこともある



それは過敏だからなのか

繊細だからなのか

あるいはぜい弱だからか

社会が強すぎるのか

人の多い都会だからなのか



わたしにはよくわからない




小さなナイフが飛び交う外に出ると

こころと身体が傷だらけになる


すぐに命を落とすことはないが

着実に増えていく

ちいさな傷



その傷が一定以上になると

生き物は命を落とす




ねえ あなたはいたくないの?


洋服で隠れているけど

服の下には切り傷が あるんじゃないの?




傷つきたくないから

人間は箱の中に入る


箱の中の甘い液体に浸かっていれば

多くのひとからはみ出さずに済み

かすり傷を負うこともない



脳の活動を停止させ

ポリエステルの布で顔を覆うのだ



「大丈夫 今日もわたしはおかしくない」




箱が

甘い香りを漂わせ

向こうから手招きしている



息を止めて 腕を絆創膏だらけにしながら


ヒヨドリの鳴き声を頼りに


今日もあるく

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エッセイをあつめたもの ゆきのともしび @yukinokodayo

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