日常4

『あーあ。もう13:00か。何すっかなぁ。』

週に一度の休日だというのに昼過ぎに目を覚ました。いつも通り予定は無い。


『とりあえず飯でも食うか。』

小さなシンクとクッキングヒーターだけが存在しているキッチンで作れるものは限られている。こんな狭いキッチンにユニットバス、6畳ワンルームで家賃は\75,000なのだから都会は本当に恐ろしいところだ。

とは言え、どんなに広いキッチンがあったとしても俺が作る料理は決まっている。

クッキングヒーターで湯を沸かす。腹が減っているからと言って焦りは禁物だ。必ず沸騰させてカップ麺に注ぐ。

冷凍食品を電子レンジへ。温める時間にはいつも細心の注意を払う。

長年培ってきた自炊スキルによって作られた料理に舌鼓を打ちながら海外ドラマを観る。

世の中の成人独身男性の一人暮らしなんてこんなもんだろう。そうに違いない。そうでなければならない。


『・・・?もうこんな時間か。』

気付いたらドラマを観ながら眠ってしまったようだ。日頃の疲れが溜まっているのだろう。時計は既に18:00をまわっていた。


『居酒屋にでも行くか。』

いつもならコンビニか冷凍食品で夕飯も済ませることが多いのだが、あまりにも非生産的な休日を過ごしていることにやるせなさの様な寂しさの様な言いようの無い感情を覚えたのか、奇跡的に外出という選択肢を取ることにした。

そうと決まれば店を探そう、、、という気にはなれないのが俺だ。店を選ぶのはひどく労力が掛かる。レビューサイトで点数の高い店を探し、口コミを読んでみると、

 "お料理も美味しく、店員さんも皆良い人たちばかりでした♪"→★3

 "料理も値段も可もなく不可もなくと言った感じ"→★4

というガバガバ評価であまり参考にならない。

一瞬いつも通りのコンビニ飯が頭をよぎったが、ふと以前拓のアパートの近くで入った居酒屋を思い出した。

味も良く値段も良心的な大衆居酒屋といった感じのお店で独り身の男性でも入りやすい。

やっぱ拓って良い店知ってるよなあ、なんてことを思いながらアパートを出た。


『結構遠かったな。』

歩いて15分。お目当ての店に到着した。

よくよく考えると拓の家までも15分程度ということだ。それなのに、拓とは休日に会うことはほとんど無い。きっと拓が休日に過ごしている生活圏と俺の生活圏が違い過ぎるのだろう。俺の中で休日の遠出と言えば歩いて10分のドラッグストアだ。それ以外はコンビニとアパートの往復。そりゃ拓どころか知り合いにすら会わないはずだ。


『ぃらっしゃあせー!ご予約のお客様ですか?』

店員に聞かれ、予約していない旨を伝えると今日は予約で満席とのことだった。

それならば仕方がない。帰ろう。

折角外出したのだから他の店で食事するという選択肢も考えられたが、そんな代替案を実行できるほどの活力は俺にはない。いつもの俺からしたら、この居酒屋に来たことだけで十分過ぎるほどの奇跡だ。明日も仕事だしいつも通りコンビニで買い物して、海外ドラマのを観ながら夕食にしよう。

そんなことを考え、来た道を戻ろうとしていると聞き覚えのある男女の声が聞こえてきた。


『今日は楽しかったです。またご飯行きましょうね。』

『ああ。俺も楽しかったよ、ありがとう。』

『明日また会社で。』

『帰り道気を付けて。』


俺は急いで踵を返した。

そこからの記憶は無い。

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