第一章 第十話

 あれは話を逸らされたのだ、と蚊帳は目を覚ました。


(暑い)


 夏に毛布を掛けて眠ったらこんな風だろう。そう言えば、この熱っぽさを、蚊帳は最近感じた覚えがある。

 うとうとと眠りそうになる。


 グッと胸の下辺りが押され、蚊帳は再び目を覚ますのと同時に、隣で眠っていた筈の埜谷が、蚊帳に絡みついて眠っているのに気が付く。


 怯えて毛布を抱きしめる時のような、抱きしめ方だ。この熱っぽさは、ついこの間埜谷と肌が触れた時感じたものと同じだ、と蚊帳は思った。

「お前しかいない」

 背中に、埜谷の額が押しつけられるのを感じる。


(大丈夫だよ埜谷、大丈夫)


(何もかも全部平気になる日がくるよ)


 口には出さず、蚊帳はそのまま眠った。あれ程暑かった熱も、埜谷の体温だとわかれば心地が良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水と器 靑蓮華 @kitunebeni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ