第三話 太陽と雪
「うーん、特に変わった様子はありませんねえ」
賢治はポートマフィア本部が見えるビルの
「そ、そうだね……」
谷崎はというと、賢治に負ぶわれて脳筋型の瞬間移動をさせられ、三半規管に多大な損害を受けたために、しゃがんでいることすらままならない――。
「あ!」
不意に賢治が声を上げる。
「な、何……」
谷崎はどうにかして、真っ白の顔を上げる。
一方、賢治はポートマフィア本部ビルの裏を指差し、谷崎を見てにっこにっこと笑っている。
「芥川さんが戻ってきましたよ!」
「ど、どこ……」
賢治は田舎の血のせいか、異能力で
「あ、ほんとだ……」
ポートマフィア本部に複数ある裏口のうちの一つに、芥川が入ろうとしている。
相当に機嫌が悪いらしく、その顔は今にも地球を滅亡させそうである。
「敦さんは一緒じゃありませんね」
谷崎と一緒に再び下を覗き込んでいた賢治が、ちょこんと首を
「そうみたい」
芥川は一人で、手ぶらだ。周囲には部下の姿も無い。
「行きましょう」
ポートマフィア本部に乗り込むなど、今となっては日常茶飯事である。
「そうだね」
谷崎は賢治と共に立ち上がる。
外の空気を吸っていたお陰で、
「谷崎さん、お願いします」
「うん」
――異能力、『細雪』。
賢治と同様に、谷崎の異能力も成長している。
今や、雪を降らせた空間の見た目――
つまり、匂いの物質や、物質である空気が震える音も誤魔化すことができるのだ。液体や固体の物質――水や
白い雪が降り始める。
谷崎と賢治は、外から見ればほぼ完璧な透明人間となる。
「谷崎さん」
賢治が、にっこにっこと笑って、谷崎に手を差し出している。
「一緒に行きましょう」
賢治の大きな手が、谷崎の腕をがっちりと掴む。
「ご安心ください。何時もの速さで走ったら谷崎さんがお肉の塊になってしまうことは分かっていますから」
「いやあああああああああああああああああああああああああ……!」
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