第7話 あぇ!?

☆神嶋徹(こうしまとおる)サイド☆


アイツから。

楓から救難信号が来た。

紅葉ちゃんの事が気になったので俺は楓の家まで向かう。

すると言い争う声がした。


「お父さん!止めて!」

「離せ。私はもう我慢ならない」


泣く声。

そして怒号。

俺は唖然として駆け込む。

インターフォンも押すのを忘れて駆け込んでいた。

それから俺は「待って下さい!」と声を掛ける。


「...君は...徹くんじゃないか」

「お久しぶりです。おじさん。無断で入ってごめんなさい。...その。紅葉ちゃんの件で喧嘩しているんですか」

「...そうだ」

「気持ちは分からなくもないです。でも...もうちょっと...紅葉ちゃんの為に何かしら手段は打てませんか」

「...私は手段を尽くした。しかし何も変わらないままじゃ...」


おじさんは悲しげな顔をする。

俺はその顔を見てから泣いている楓と紅葉ちゃんを見る。

そして「おじさん。紅葉さんを...外に連れ出してあげたら良いんですよね?」と聞いてみる。

するとおじさんは「まあそうだが...」と返事をする。

その言葉に俺は紅葉ちゃんを見る。


「...紅葉ちゃん。暫く俺と付き合わないか」

「はぃい!?」

「いや。あくまで付き合うってのは恋愛の意味じゃない。俺と色々な場所に行かないかって意味。社会練習だよ」

「...だけど徹!?」

「楓...良いだろ?」

「で、でも...」


楓は何だか状況に噛み合わない様な顔をしている。

何故そんな顔をするのか分からないが今は紅葉ちゃんの保護が大切だ。

思いながらおじさんを見る。

おじさんもこうなるとは思わなかった様な顔をしていた。


「...おじさん。必ず紅葉ちゃんを社会復帰させます。...暫く見ていて下さい」

「...しかし...何をしても紅葉は部屋から出ない。...私が...」

「...貴方の可愛い愛娘ですよ」

「...」


おじさんは顔を顰める。

それから「...あくまで涼子の意思を引き継ぐ予定だった。だからこそこうして無理矢理にしているのだ」と答える。

住山涼子(すみやまりょうこ)さんか。

俺は横を見ながら考える。


涼子さん。

脳の悪性腫瘍で亡くなった楓達の母親だ。

俺はその事を思い出しながら「紅葉ちゃん」と向く。

それから「一緒に外に出てくれないか」と言う。

すると紅葉ちゃんは考える感じを見せた。


「...お兄となら良いよ」

「...そうか」


そんな感じで俺は楓を見る。

おじさんを見る。

楓は眉を顰めていた。

何故この場でそんな顔を浮かべるのか分からなかったがまあ心配なのだろう。


「...分かった。君がそう言うなら。...紅葉も約束してくれるか」

「...お父さんの意思は尊重した...から」

「...分かった。今日は何もしない」


それからおじさんは諦めた様に俺を見てくる。

俺はその顔を見ながら頷く。

そして「おじさん。有難う御座います」と言いながら階段に座るおじさんを見てから楓に向く。


「楓。...これで良いか」

「...い、良いけど...」

「...何か有るのか?お前。何か歯がゆい感じだが」

「う、うん...いや。ごめんなさい。気にしなくて良いよ」


そう言いながら楓は残念な感じの顔をする。

俺はその姿を見ながら紅葉ちゃんを見る。

紅葉ちゃんは俺を見つつ目を伏せていたが顔を上げて赤くなった。


「宜しく。俺のパートナーさん」

「そ、そうだね。お兄」

「じゃあ早速明日...移動しようか」

「明日...何処に行くの?」

「小さな事から始めよう。...コンビニに行ってみるとか」

「う、うん。それぐらいなら」


そう会話をしていると楓が「徹」と声を掛けてきた。

俺はその言葉に楓を見る。

楓はモジモジしつつ「頑張ってほしいけど...その」と何かバラバラの単語を並べる。

何だコイツ?


「ま、と、とにかく頑張ろう」

「お?おう」


それからその日の騒動は決着がついた。

そして紅葉ちゃんと約束した。

明日はコンビニに行くという事を。

俺はそのまま家に帰る事にした。


☆住山楓(すみやまかえで)サイド☆


まさかこんな事になるなんて。

紅葉が...徹と一緒に行動?

それはマズイと思う。

私が...私の徹だから止めてほしいけど。

だけど。


「...紅葉の為だから。頑張らないと」


そう言い聞かせながら私はスマホを取り出す。

それから徹に文章を打つ。

(徹。明日は紅葉の事。宜しく)という感じでだ。

多分...紅葉の事だ。

心は動かない...と思うけど。


だけど!


「あー...何でこうなるのか」


呟きながら私は伝え損ねた気持ちの事を考えながら焦りを感じる。

徹が取られてしまわないか本当に心配だ。

だけど紅葉が。

でも、でも。

あー!!!!!


「くぅ...」


私は頭をぶんぶんと振りながら気持ちを否定しなかった私自身を恨みつつ。

馬鹿な事をしてしまったとごちゃごちゃな気持ちで勉強を始めた。

取り敢えず気分転換...にならない。

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