第5話 鍵と錠

正直言って何故アイツが1万円を返したがらないのか不思議でならない。

だけどまあ何かもう良いや。

返してもらえないなら当面は昼飯ぐらいで勘弁してやろう。

そう思えたこの頃で俺は放課後になって着替えて待ち合わせ場所の大公園の噴水場に向かう。

30分後ぐらいに来てほしいと言われたから。


「徹」

「...で?ノートを買いたいってのは何なんだ?1人でも行けるだろ」

「...まあそうだけど」

「じゃあ何で俺まで...」

「...ノートを買いに行きたいのは上辺の話。徹にこれとこれを渡したかっただけ」


それは何か鍵穴のあるロケットペンダントの様に見える。

俺は「?」を浮かべながら「これは何だ?」と聞いてみると楓は同じペンダントを取り出しそして鍵を取り出した。

そして封筒に入ったお金を取り出す。


「...お昼ご飯代だよ。これを返したくて」

「...え?返してくれるのか?」

「だってよく考えたら徹はスマホ買うしね。ゴメン。今まで取っていたのはこの為だったのもあったけど」

「俺はお前に昼飯代として寄付をしても良いかなって思っていたんだが。暫く昼ご飯を作ってもらうのに」

「...それも一瞬考えたけどね」


そう言い淀みながら噴水を見る楓。

それから「私はお姉ちゃんとして弟を見守る義務がある」と言い出す。

またそれか?俺は弟じゃ無いぞ。

思いながら苦笑して見ていると「...筈だった」と紡ぐ声を発した。

待て。筈だったってのは何だ。


「...筈だったとは何だ?」

「...」


歩き出す楓。

それから石ころを蹴飛ばす。

子供がはしゃいでいる声。

そして風を感じる中。

俺は「?」を浮かべて楓を見る。


「...徹。...私ね。ずっと弟としての徹の事を考えていた」

「おう。そうか。それは弟としてか?舐められたもの...」

「違う。...貴方を...貴方の隣に立つ人として」

「回りくどいな。何を...」

「...私は...その...」


俺は「?」を浮かべながらそのまま真っ赤になっている楓を見ていると楓の足元にサッカーボールが転がって来る。

それから「お姉さん。ごめんなさい」と子供がやって来た。

楓は首を振りながらサッカーボールを手渡した。

そして駆け出して行く子供を見送りながら俺を見る楓。


「何が言いたいか忘れちゃった。帰ろう」

「...今の今で忘れるか?お前。流石に無いだろ」

「忘れたの。とにかく。だから帰ろう」


それから楓は俺の手を取ってから歩き出す。

というかこれの事を聞き忘れていたが。

この鍵穴のあるペンダントは何だ。

そう思いながら「楓。これは何だ?」と見せる。


「それは中身のある鍵穴のペンダントだよ。さっき少し高級な店で買った」

「...?...じゃあ中身は何だ」

「それは内緒」

「...はい?」

「だから内緒だよ。...これは私の友人の陽子が提案した」

「...うーん。意味が分からない...」


俺は楓を見る。

確かに中身がある様に重たいが。

何が入っているのだ。

思いながら「鍵があるなら開けようぜ」と言う。


「デリカシーが無いよ。徹」

「え!?デリカシーの問題か!?」

「そうだよ。全くね」

「...うーぬ」

「それからお金は返したけどお弁当は作るから」

「え?いや。お前...今日何時起きた?」

「午前5時だよ」

「じゃあ良いよ。作らなくて」


これ以上は楓も体調を崩す。

思いながら俺は楓を見てみる。

楓は「うん。私が作りたいから」と返事をしてきた。

それから俺を見てくる。


「せっかくフリマアプリで戻った仲だしね」

「まあそうだけど...疎遠になっていたしな」

「私は作りたいって思う。だから作らせて」

「...うーん。分かった」


だけど。

俺はさっきの封筒を取り出す。

それから5千円札を取り出した。

そして楓に渡す。


「...楓。これは食材費な」

「え?...い、いや。でも私が作りたいって言ったから」

「ただで食材を使ってもらうのも申し訳ない。だから一応5千円は渡しておくよ」

「...」


楓は赤くなってボソッと何か呟く。

「そういうところだよ」という感じでだ。

俺はその言葉に「?」を浮かべて聞いてみた。

「何か言ったか?」という感じでだ。


「何でもない。徹のばか」

「はは。次は罵倒の趣味に移ったのか?」

「罵倒の趣味?違うよ。...これは素直な感謝の気持ちだよ」


そう言いながら楓が俺を見上げてくる。

究極の美少女が赤面で見上げてくるその姿に思わずドキッとした。

そして楓は肩に手を置く。

ま!?何をする気だ!、と思ったら耳打ちされた。


「徹。いつかその鍵穴は私の鍵で開ける日が来るよ。だけど今じゃ無いからね」

「マジに中身何が入ってんの?」

「内緒。そして教えない」

「...はぁ...」


爆発物とかじゃ無いよな?

そう思いながら俺は鍵穴のあるペンダントを持ち上げる。

それから見つめていると「ねえ。徹」と声がした。

俺は顔を上げて楓を見る。

楓は笑顔を浮かべ俺を見ていた。


「大丈夫。爆発物とかじゃ無いから」

「お前は超能力者か」

「徹の考えてそうな事なんてお見通しだしね」

「...さいですか...」


俺はそう答えながら苦笑いを浮かべる。

彼女が何を考えているのかは分からない。

だけどまあ悪い気はしなかった。

楓らしかったしな。

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