バースデイボックスバースト

長月瓦礫

バースデイボックスバースト

赤いリボンのプレゼント箱が東京タワーに突き刺さった。

展望台に引っかかり、下に落ちなかったのが不幸中の幸いか。

あまりにも巨大な箱、人々は足を止め、突如現れたそれを眺めていた。


展望台はすぐに封鎖され、立ち入り禁止となった。

都心は混乱に陥り、交通機関は乱れに乱れた。


何の前触れもなく降ってきたプレゼント箱のような何か。

奇々怪々で正体不明、何かが出てくるわけではない。


空のプレゼントボックスが突き刺さっただけだ。

誰かが仕掛けたドッキリなのか、宇宙人からのメッセージなのか。


箱の中身は貫通してしまっている。

専門家の見解を得るには、あまりにも情報が足りなさ過ぎた。


世界中からメディアが押し寄せ、巨大なプレゼントボックスを実況している。

些細な変化も見逃すまいと、誰も彼もががカメラをじっと向けている。


赤いリボンは風にあおられ、旗のようにたなびいている。

今にもずり落ちてきそうだ。


その日の夜、世界中から解体業者が集まった。

日本政府は無害であると判断を下し、プレゼントボックスの解体工事が始まろうとしていた。

重機が音を立てて東京タワーに近づき、リボンに触れたその時だった。


「今日は誰かのバースデー。毎日が誰かの誕生日。何もない日なんてない。

手を取り合ってお祝いしよう、今日という日を祝うために、みんなでお祝いしよう」


東京タワーに刺さったプレゼントボックスがハッピーバースデーを歌い始めた。

人々は大歓声を上げ、同じように歌った。


「ハッピーバースデートゥーユー……ハッピーバースデートゥーユー……」


太く大きな音が響き、電柱はぐらぐらと揺れている。

窓ガラスは今にも弾けそうにびりびりと震えている。

さながら壊れたおもちゃ箱だ。ずっと同じ曲を繰り返している。


「ハッピーバースデーディア……」


誰かの名前を告げようとした瞬間、それは爆発した。

プレゼントの破片は東京を飲み込み、熱風はすべてを薙ぎ払った。


跡形もなく、都心が消え去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バースデイボックスバースト 長月瓦礫 @debrisbottle00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ