第27話 【陽奈】初デート

土曜日。

朝6時の目覚ましがなる前に目覚めた私は、シャワーに入り、いつもの10倍気合いを入れてメイクとヘアセットをした。


今日は待ちに待ったコータさんとの初デート。


8時に迎えにきてもらうことになっているから、それまでにパーフェクトな自分にしておかなきゃ。


今週は、なんかあんまりコータさんから連絡が来なかった。仕事忙しかったのかな。まぁ、今日のことも決まってたし、会ったときの楽しみが多いほうがいいか。


ルージュの口紅をさし、リップグロスを塗ろうと唇を軽くあけて、一瞬手が止まった。


先週のハルトとの出来事を思い出して、少しムラムラして体が熱くなった。


ハルトのキス、気持ちよかった。身も心も、とろけちゃいそうだった。

でも、このままハルトとしたら完全に好きになっちゃうって思うと、なんだか罪悪感でいたたまれなくなって、女の子の日だからゴメンって嘘をついて、中途半端でやめにしてしまった。


ハルトは、すごい悲しそうにしてたけど、素直に、わかったっていって、私を優しく抱きしめてくれた。

なんだかハルトにも申し訳なくて、優柔不断な自分がいやになって涙が出た。

私はやっぱり、コータさんが好きなんだ。


ハルトは、また今度しよ、っていって、私のおでこにキスをしてくれた。

私が涙を流す理由をきかずに、ハルトは私が寝るまでずっと、抱きしめながら背中をさすってくれた。

私はつい安心してそのまま寝てしまったが、ハルトはちゃんと寝られたんだろうか。

優しいな、ハルト。





鏡の前で口を開けたまましばらく呆然としていた私は、我に返った。


こんな気持ちでコータさんに会うなんて、なんだかすごい悪いことしてる気分だ。

でも別に、付き合ってるわけでもないし、そもそもコータさんの方も、他にも女がいるかもしれない。私はまだ、コータさんのことを、なんにも知らない。



デパートで買ってきたお高めの新しい下着を身につけ、久々に出した水着をカバンに入れた。



ハルトは可愛いかったし、したくないわけじゃなかったけど、年上の私がどうしてもハルトの本命彼女になれるとは思えなくて、夢中になっても、ハルトの大勢の女のなかの1人になってしまうだけな気がして。



私は、コータさんの本命になりたい。コータさんと気持ちよくなりたいし、コータさんに抱かれたい。



1時間かけてアイロンでコテコテの巻き髪を作った。可愛いって思ってくれるかな。




8時。コータさんから、ついたよとLINEがきて、玄関へ降りた。


コータさんは車からおりてきて、助手席のドアを開けた。

「ひな、おはよ。久しぶりに会えて嬉しいよ。いつもと雰囲気違うけど、すげー可愛い。」

いつになく優しい顔をしたコータさんは、肩の高さにある私の頭を軽くポンポンと優しくなでて、車へ案内した。

褒められて、触れられて、ちょっと口元がにやけてしまう。


「おじゃましま〜す」


コータさんは、身の回りには無頓着なのだろう。車の中を見て、私はコータさんの暮らしぶりを想像した。


「パンさ、俺早起きしすぎて暇だったから、先に買ってきちゃった。笑」


「ありがとうございます!何時に起きたんですか?私も、6時から起きてます。笑」


「俺、5時。笑」


2人でケラケラと笑った。お互いに、今日が楽しみすぎたのだろう。


「よし、出発しよっか」


「はい!!」



朝日が眩しく照らす中、ようやく私達の長い1日が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る