第26話 【奏多】上司の誘い

「藤原くん、これ、7階の島田さんに届けてくれる?」

「あ、はい、わかりました。」


俺は、「miki」こと山本主任から書類を受け取った。

バーベキュー以降、日に日に山本主任からの依頼が増え、好き好き光線が強くなっている。もはや、社内でも噂になってしまった。


エレベーターを待ちながら書類を手に溜め息をついていると、中から仲村さんがニヤニヤしながら出てきた。

「奏多、お前もう完全にロックオンされてんな。」


「しんどいです。助けてくださいよ〜」


「知るかよ!お前がまいた種だろ。笑」


なんだかやることなすこと、すべてが空回りしている気がする。



「主任、島田さんに渡してきました。」


「ありがとう。そうだ、今から私、外勤なんだけど、藤原くん、プロジェクター持ってくの手伝ってくれない?荷物が多すぎて1人で持ちきれなくて。」


「はい、わかりました。」

がっかりした俺は俯いたまま返事をした。

時刻は11時。間違いなく、主任とランチご一緒コースだろう。


あぁ、めぐやひなと楽しく定食屋のランチが食べたい。



「さっ、じゃあすぐ出る準備して!」


「はい。」


最近、自分の仕事はなんだったかわからなくなるくらい主任のお供や雑用ばかりしている。



俺はパソコンをいじるのが好きなんだ!!!!

俺にまともな仕事をさせてくれ!!!!

心の奥でそう叫びつつも、上司の命令には逆らえない。




荷物を抱え、2人でエレベーターにのると、主任はスリットの入ったスカートに目をやりながら、右足を軽く持ち上げた。

「あらやだっ、ストッキングがやぶけてる」



うっかり主任の挑発にのった俺は、太ももまでめくれた主任の足をガン見してしまった。



「やだっ、何!藤原くん、エッチ!!!」

主任が嬉しそうに顔を赤らめた。



やっちまった。バカか、俺は。

俺は目をぎゅっとつむり、エレベーターからおりて先を歩く主任の後ろで、自分の頭をコツンと叩いた。



「藤原くん、ちょうどお昼はさむし、どっかでランチしましょ。」


「いいですよ。」

‥ちょうど、じゃなくて、狙って、だろ。。。と思いながら、仕方なく上司の誘いを受けた。



「私のね、お気に入りの店があるの。案内するわ。」




主任が案内したその店は、なんと、俺が最初にひなをデートに連れて行こうと考えていた店だった。


ピンクとハートだらけの可愛い装飾の店内で、チョコレートフォンデュのタワーがお出迎えしてくれた。

主任、意外とこんな可愛い趣味してるんだな。センスが一緒なんて、ちょっとびっくり。


「インスタ映えしそうなお店よね。私、こういうの大好きで。藤原くん、このチョコレートフォンデュをバックに、写真とってくれない?」


インスタにあげるんだろうか。



俺が正面からスマホを構えると、主任はテーブル越しに前のめりになり、マシュマロをつまんでウィンクした。いつボタンをはずしたのか、スーツの下のブラウスが大きくはだけていて、マシュマロみたいな胸の谷間がくっきり見えた。



俺は不覚にも、写真を何枚かとるふりをして、スマホ越しに主任の胸の谷間をまじまじと眺めてしまった。






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