ダンジョン抗争編

第42話 第13ダンジョンの利用価値

 熾天使筆頭であるラーミウが、第1ダンジョンの聖女に天啓を与えた。


 タカオの地に堕天使フジーコの誕生し、それに伴い10の滅びたダンジョンが再生するだろう。

 再生したダンジョンを攻略し、堕天使を討伐せよ。討伐した者には、神々より「救世主の称号」と「攻略したダンジョンの利権」が与えられる。


 にわかにキョードの世界は活気付く。熾天使ラーミウの天啓に続き、他の10の熾天使も似た天啓を授けた。

 「救世主の称号」は勇者を凌ぐ名声であり、「ダンジョンの利権」は何れは国家規模の財となる。


 そして、最初に明かされたダンジョンのある地は4つ。ギルドには、新しいダンジョン捜索と、攻略の依頼が溢れる。


「ブランシュ、このまま行けば俺達は堕天使フジーコのお仲間になるみたいだぞ」


「ええ、堕天使フジーコ一派にされてしまうわね」


 恐らく、最初に場所を明かされたダンジョンは、まだ小さく弱いダンジョン。聖女すら居ないダンジョンでは天啓を与えることも出来ず、ラーミウの天啓に対抗する術はない。


 それにダンジョンを攻略すれば、堕天使フジーコの力が弱まり、また対抗する加護が手に入るとされれば、冒険者達の欲望の前には多少のことは掻き消される。

 次第に明かされるダンジョンの規模は大きくなってゆき、何れは第13ダンジョンもその1つとなるだろう。

 少しずつ冒険者を成長させると共に、堕天使フジーコに対抗出来ると思いこませる狡猾な罠。


「先輩っ、緊急事態っす。ダーマさんとこの冒険者達が避難してきています」


「何があった?」


「いや、その、何て説明してイイのか。取り敢えず、これを見て下さい」


 ヒケンの密林で、唯一の未開の地だった迷いの森も、全域が解明された。しかし、表示されているホログラムの地図は、第13ダンジョンを囲むように、真っ黒となった領域が広がっている。


「どうして迷いの森が復活している。それに前よりも迷いの森の規模が拡大しているじゃないか!」


 迷いの森は全ての者の侵入を拒み、外へと追いやられれば、自然密集してくる。魔物や獣達と、ダーマの息のかかった冒険者や商人達が、戦闘を繰り広げながらダンジョンへと向かってきている。


「マリク、冒険者達の退避ルートは確保出来るか?」


「在るには在るっすけど、複雑過ぎます。それに、ダンジョンの外では、限界があるっすよ」


 地図のホログラムでは、第13ダンジョンは完全に迷いの森に囲まれてはいない。複雑な迷路となっているが、森の外に抜ける道も残されている。


「くそっ、コイツらを死なせたら、ダーマさんに怒られるぞ。バレないように、出来るだけフォローするんだ!」


「先輩っ、えっと、その……」


「何だ、時間がないんだぞ。ハッキリ言え!」


「第3ダンジョンからの通信。モニターに出します」


 モニターには、不機嫌そうなロマンスグレーの黒子天使の姿が映しだされる。それは、俺達だけでなく、第3ダンジョンでも混乱していることを教えてくれる。


「急な通達で、そちらも大変なようだな。どうやら、レヴィンとマリクはサボってはおらんようで安心したわい」


「ご心配頂き、ありがとうございます。しっかりと、働いていますのでご安心下さい」


 いつもならばブランシュがダーマさんの相手をし、俺はスキル全開で気配を消するが、最初から俺とマリクが名指しでロックオンされている。


「いやな、冒険者達からの定時連絡が途絶えたと聞いておるが、問題ないかな。なあ、後ろのレヴィンよ!」


「ただ今、総動員で避難対応に当たらせていますので、ご安心を」


「これは、第3ダンジョンと第13ダンジョンの繋がり。中には有能な者もおる。応援を出してやりたいが、こちらも人手が足りておらぬ」


 サプリに秘められた可能性を知っているだけに、ダーマの送り込んだ冒険者や商人の中には、それなりの実力者も含まれている。


「はっ、十分に承知しております」


「神々の気紛れとラーミウの性格は良く知っておろう。価値の無いと感じさせたものは消える。単純明快な世界じゃ。くれぐれも、忘れぬようにな」


 結局全ては、ラーミウの匙加減1つでどうとでも出来る、生殺与奪を握られている。利用するタイミングを図っているだけなのかもしれないが、その価値があり続けると思わせなければならない。


「とりあえずダンジョンの中に避難させろ。喰えない爺さんでも、後ろ楯を失うわけにはいかない」

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