第40話 創造神ゼノの憂鬱

「ラーミウ様、ゼノ様からの至急のお呼び出しです」


「来たか。イーフ、直ぐに支度をしろ」


 何の予告もなくラーミウの元へと現れたのはゼノの使いの天使。

 急な呼び出しを告げられたのは、熾天使筆頭のラーミウと、第1ダンジョン司令官であるイーフの二人。いつも通りの平静さを保つラーミウに比べて、イーフの顔は青ざめている。


 神の中でも頂点に君臨する創造神ゼノから呼び出し。


 キョードの世界の運営は、全て熾天使に任せられている。常に熾天使から神々へと報告が行われるのが慣わしで、呼び出されることは非常事態を意味する。


 神々の手を煩わせたことの代償は大きい。


「イーフ、何をビビっておる。死ぬわけでもなかろう」


「でも、そのっ前任者は……」


 創造神ゼノは絶対的な力と権限を持ち、逆らうことの許されない。好好爺に見えて、性格は冷酷そのもので、笑みを浮かべたまま残忍な命令を下す。


「お前は余計なことは話すな。黙っておれば問題ない」


 そして急用であるらしく、支度途中でも迎えの天使によってゼノの執務室へと強制転移させられる。


 そこは、とても執務室とは思えない空間。間接照明が多く、部屋の中は少し薄暗い。エグゼクティブデスクではなく、バーカウンターがあり棚には幾つもの酒瓶が並べられている。


「待っておったぞ、ラーミウよ」


「急なお呼び出しで、如何なるご用件でしょうか?」


「分かっておろう。そろそろアマソンを解禁してもイイのではないか? もう第6ダンジョンの崩壊から2ヶ月は経っておる。キョードの世界の食べ物は、どれも口に合わん」


「ゼノ様、期限の3ヶ月まで後1ヶ月。もう少しお待ち頂ければ、元の生活に戻ります」


 ゼノが求めているのは、異世界のお取り寄せグルメ魔法の解禁。召喚魔法アマソンを使えば、異世界の物を何でも取り寄せることが出来る。


 ただ問題なのは、消費する魔力が尋常じゃないくらいに大きい。1つ召喚するだけでも、最上位魔法の数百倍の魔力を消費する。だから、神々は少しでも多くの魔力を集めようとしている。


「後1ヶ月で約束の3ヶ月なのだぞ。軌道に乗っておるなら、多少稼働させても問題はあるまい。それとも、計画は遅れておるのかな」


「ご心配なく。計画を理解出来ぬ、低能な者どもが騒いでおるだけに過ぎません。幾つもの選択肢がある中の1つ。全てが想定内で、予定通り進んでおります」


「では、第13ダンジョンも上手くいっておるのだな」


 第6のブラックアウトで生じた、魔力損失は全体の約5%。その穴埋めをする為に、幾つかのダンジョンが再生された。その1つが、第13ダンジョン。


 滅びたダンジョンを中途半端に再生させても、簡単に損失分を補うことは出来ない。


「はっ、第13ダンジョンも計画通りに。人員削減が進めば、魔力の収支には問題ありません」


 ラーミウの見せた資料は、取得魔力と消費魔力についてまとめられた報告書。取得魔力は減ったままだが、計画通り削減されれば消費魔力も抑えられている。

 最初から、第13ダンジョンは失った魔力を補填するための目的ではなかった。

 第6ダンジョンの破綻は想定外だったが、それは千載一遇の機会でもある。不必要に増えた天使や地上の生き物を処分するためには、何かの口実が必要となる。

 不用物を排除し、最大限の効率で稼働させれば、現在の魔力量でもアマソンは稼働させることが出来る。


「そうか、それならば第13ダンジョンの計画は少し待て」


「如何なされましたか? 私の計画に不備でも?」


「イヤな、これよ」


 創造神ゼノが、棚から取り出した白い酒瓶。


「それは、もしや?」


「そうじゃ、始まりのダンジョンの消滅と同時に消えてしまったミホン酒じゃ。まさか、コレが復活するとは思わなんだ。まさか、神饌に混ざってくるとは驚きよ。肴が良くても、重要なよは酒よのう」


 しかし、それだけで創造神ゼノが、ラーミウを呼び出す訳がない。


「第13ダンジョンを後回しにして、アマソンを稼働させよと」


「流石は筆頭のラーミウ、察しが良い。もうレンチンは飽きたし、在庫も半月分しか無いのだ。後、3日だけ待ってやる。それ以上はならん」


「はっ、仰せのままに」


 こうして、ダンジョン破綻計画が実行される。

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