第26話話 地底湖の出現

「先輩っ、第6階層に地底湖が出たみたいっす」


「大きさは?」


「1階層の3分の1程っすかね? ダンジョンはまだまだ成長してるからハッキリした数字は出せないっす」


「でかいな。まだ6階層なのに、そんな規模の地底湖が出現するんだ」


 冒険者の生命力を吸い取り、成長するダンジョン。しかし、それは成長が大きく促進されるだけで、放っておいても少しずつダンジョンは大きくなる。


 そして、地底湖の出現が意味するものは、冒険者達の拠点となる階層だということ。

 ダンジョンに長期間く潜る為に必要なものは、まず水の確保。しかし地底湖となれば、ダンジョンの中でも農作物を栽培し、家畜を育てることが可能になる。


 アイテムボックスのスキルやマジックバッグを持つ冒険者は一握りしかいない。ダンジョンのでのドロップ品を回収し保管させてやる拠点は、ダンジョンとしては必須の機能。

 大体どのダンジョンにも、10階層毎に拠点となる階層設を設け、ギルドの出張所や商人達のキャラバンが常駐している。


「カスミの記憶でも、始まりのダンジョンの6階層には地底湖があったらしっすよ」


 マリクは“カスミ”と呼び捨てにし、2人の関係は良好。突然の予期せぬ出来事ではあったが、カスミも常にマリクに寄り添い離れようとしない。

 元々ダンジョンの監視業務を担っていたマリクと、子蜘蛛を使いダンジョン中に監視の目を張り巡らすカスミとの相性は良く、互いの短所を補うように情報共有し、2人で居ることで業務の精度はさらに向上している。


 マリクだけでなく、肝心のブランシュとカスミの関係も良好で、特に質の良い糸を出す子蜘蛛を集めて、第6ダンジョンの中で生産工場を立ち上げしまった。

 これはダンジョンのドロップ品としての使用目的ではなく、ダンジョン内で消費されるらしい。


「どの階層も、まだまだ大きくなるっぽいっすね。まだ始まりのダンジョンの頃と比べると、半分以下の広さみたっすよ。1ヶ月だけでもダンジョンの外郭は1mは広がってますからね」


 そしてカスミがもたらす、始まりのダンジョンの知識や情報は大きい。古代竜ザキーサは、ダンジョンの下層に引きこもっていたので、持っている情報量は少なく偏っている。それに対して、カスミは始まりのダンジョンの構造を知り尽くしている。


「それで、温泉地底湖ってのも、合ってるのか?」


 湖の一部からは湯気が上がり、ダンジョンの中にあっても暖かく快適に気温になっている。


「流石に、それは違うみたいっすね。あったのは、普通の地底湖っすよ。なあ、カスミ」


 マリクが振り返り問い掛ければ、黙ってカスミは頷く。業務中はマリクを立て、カスミは前に出てこない。


 始まりのダンジョンの再利用ではある第13ダンジョンは、全てが同じ構造になる訳ではなく、ブランシュの意を汲み取り少しずつ改変されている。


「まあな、ダンジョンの中で冒険者を傷付ける必要はない。最初から、怪我している冒険者の流す生命力を集めるのも方法かもしれないが……」


「効能も色々あるみたいっすね。オレっちの鑑定眼スキルでも分からないヤツもあるっすよ」


「ダンジョンの中には留まってくれるかもしれないが、冒険じゃなくて旅行だな」


 今のところ第13ダンジョンにはゴブリンしか出現しない。このまま行けば、ギルドや宿場じゃなく、旅館や保養施設が出来てしまう。

 黒子天使が出来るのは、冒険者達の肉体を改造することだけで、思考や思想に影響を与えるの熾天使の仕事になる。


「やっぱ、冒険者を煽動する聖女が必要なんすかね?」


「でもな、その宛も権限もないからな」


 聖女や勇者の認定は、熾天使のみが行える。これは、ダンジョンに関係する黒子天使の業務ではない。

 第6ダンジョンの聖女も、熾天使フジーコにとっての都合の良い存在になる者を聖女に認定していた。そこには、信仰心や能力の高さは必要とはされない。


「そうっすよね。こんな辺境のヒケン密林に住む種族なんて……」


 カスミがマリクの耳元で囁くと、マリクの言葉が途中で止まる。


「どうしたマリク?」


「昔と変わらなければ、ヒケンの密林には獣人族が住んでいるらしいっす。始まりのダンジョンの聖女も獣人族らしいっすけど……暗殺者集団みたいっす」

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