第22話 転校生、アイビス=カフネディカ

「ホームルームの前に重大発表がある。実はこのクラスに転校生が来ることになった」


 俺の言葉を聞いた生徒たちから、おおーっと驚きの声が上がった。


 学園という限られた空間で生活していると、新しい出会いが楽しみになるのはよくわかる。


 ただ、このお嬢様は一筋縄でいかなそうだけど。


「それでは、入ってきてくれ」


 ガラガラと音を立てて扉が開く。

 お嬢様は颯爽と教壇の前に進みでると、自信たっぷりに自己紹介を始めた。


「庶民のみなさん、はじめまして。あたしはアイビス=カフネディカ。卒業までには大魔導士になるから、よく名前を覚えておきなさい!」


 深紅の髪をツインテールした少女が、腰に手を当てて宣言する。

 アイドルのように快活な美少女で、口からのぞく八重歯が特徴的だ。


 正直に言えば俺も可愛いとは思うけど、生徒たちはそれどころじゃないみたいだ。


「卒業までに大魔導士って……」

「さすがに舐めすぎじゃない」

「お嬢様だか知らないけど、態度デカすぎだろ」


 実際になれるかはともかく、この学園の生徒たちにとって大魔導士は最終目標になっている。


 いま在籍している全生徒は、卒業どころか一生かけても、夢を叶えられないのが現実だ。


 もちろん、みんなそれを承知で自分の可能性に賭けているわけなんだけど。

 それを卒業までになんて断言されたら、いい気分にはならないよな。


「あたしに言いたいことがあるなら、ここでどうぞ。決闘だって応じてあげるわよ。これを見てもそう思えるならだけど」


 アイビスが杖を振ると、炎の精霊が彼女の隣に出現した。

 全身がメラメラと燃えていて、瞳だけが金色に光っている。


 あれはイフリートだな。

 呪文を唱えてないから使い魔なんだろうけど、かなり強い個体みたいだ。


 あれなら高等部の生徒でも、苦戦は必至だな。


 強烈な熱気と威圧感に当てられて、さっきまで文句を言っていた生徒も黙ってしまう。


「ふーん、黙っちゃうんだ。ま、元から有象無象たちには期待してないけど」

 つまないというように、アイビスは口角を上げる。

 態度は最悪だけど、原作での彼女はユウリの親友にしてライバルだ。


 ここから新入生代表のユウリに絡んで、決闘する展開になっている。

 最終的には驕りをつかれて負けて、高慢な態度もちょっとマシになるんだけど。

 扱いが難しいお嬢様とはいえ、今回は俺が動く必要はないな。


「あたしが興味あるのは最初から一人だけ。そいつと戦ってみたかったのよね」

 

 うんうん。

 ここで、ユウリに向かってビシッと指を差すわけだな。


「それはあなたよ、ヘイズ=ブラッドリー先生!」


 そう、ヘイズ=ブラッドリーだよな……………………は?

 待て待て待て、なんで俺なんだよ!?


 こっちに向けられた指先に戸惑いながら、アイビスに話しかける。


「転校初日で緊張しているのはわかる。でも無理に笑いを取ろうとしなくてもいいんだぞ」

「ボケてるわけじゃないわよ! あなたって宮廷魔法使いでも難しい、繊細な武装解除魔法を使えるんでしょ? 色んな魔法学園でちょっとした噂になってるんだから」


 あれって、そんなにすごいことだったのか。

 セレスは普通にやってたから、まったく気づかなかったんだけど。


 学園の間で俺の話がでてるって、なんか恥ずかしいな。


 いや、それより問題なのは、原作とストーリーが変わってしまうことだ。

 アイビスがユウリと関わらないと、今後の展開に支障がでる。


 主人公と共に魔王教団と戦う戦力は、一人でも多い方がいい。


「不良五人相手に決闘を引き受けたって話も聞いたわよ。対戦相手として不足なしだわ。だから、あたしと決闘しなさい!」

「自己紹介は終わったな。アイビス、一番後ろの席が空いているからそこに座れ。ではホームルームを始めるぞ」

「ちょっと! 無視するんじゃないわよ!」

「授業の時間が迫ってるから後でな」


 ギャーギャーと騒ぐアイビスを、できるだけスルーする。


 想定外の展開に頭が痛くなってきたけど、そもそも俺は決闘なんてしたくないのだ。


 不良生徒たちの時は流れでそうなったけど、生徒相手に本気を出してボコボコにする教師なんて、普通に考えたらアウトだ。


 アイビスには適当な言い訳を用意して、あきらめてもらおう。


 そんなことを考えていると、椅子を引く音が聞こえて、一人の女子生徒が立ち上がった。


「まって。先生はわたしのもの。勝手に決闘するなんて許さない」


 おっと、原作主人公さんはなにを言ってるのかな?

 あと俺はお前のものじゃないぞ。


「だれ? あたしに意見するつもり?」

「ユウリ=スティルエート。先生の一番弟子」

「なるほど。決闘したいなら先に自分を倒せってことね。いいわよ、受けて立つわ」


 受けて立つな。

 あと師匠ポジションは望むところだけど、いま言うのは勘弁してほしいかな。


 二人に関係性ができたのは、いい展開だと思うけども。


「ユウリさんって、ブラッドリー先生の弟子だったの!?」

「いま、わたしのものって言ってたよね」

「二人ってどういう関係?」


 マズい。

 生徒たちがざわつき出してる。


 あと女子はひそひそ話をやめてください。

 保護者の間で噂になったら困るので。


「サラマンダー……!」

「ルクス……」

「二人ともいい加減にしろ。俺に仕事をさせないつもりか? これ以上他の生徒に迷惑をかけるなら、杖を没収するぞ」

「わ、わかったわよ」

「ごめんなさい」


 アイビスを空いている一番後ろの席につかせて、ユウリも着席させる。

 このあと急ぎでホームルームを行い、教室を出て授業に向かった。


 はぁー、なんだか朝からどっと疲れたな。

 すでに一日分の気力を消耗した感じだ。


 このシナリオ変更で、大変なことにならないといいんだけど。



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