ラムネ

ビートルズキン

第1話 ラムネ

 夏。

 蝉が鳴いている。

 じりじりと太陽が僕に汗をかかせる。

 高校に入って二年目の夏。

 僕は帰宅部だ。

 ちなみに図書委員をやっている。

 休み時間はいつも本を読んでいる。

 帰宅途中、この夏の暑さにまけて僕はいつも帰りの駄菓子屋でラムネを買う。

 キンキンに冷えたラムネを僕はごくりと飲む。

 シュワシュワとした微炭酸が喉をとおり鼻から甘い香りが抜ける。

 他にもいろいろな飲み物があるが僕はラムネがお気に入りだった。

 サイダーとも違う、コーラとも違う、優しい甘さ。

 激しい炭酸でもなく優しい炭酸。

 口の中の全体が弾かれているようでいて爽やかさが後を引く味。

 ラムネの中のビー玉がカランコロンとなるのも僕は好きだった。

 太陽の光を反射してビー玉が輝く。

 学校の同級生が今年こそは甲子園に行くぞと宣言しながら厳しい練習をしている横目で僕は帰宅する。

 帰宅はいつも一人で……と言いたいところだが、いつも幼馴染と一緒に僕は帰っている。

 その子の名前は可愛らしく女性らしい名前。だけど呼ぶと爽やかな語感なのだ。

 黒くて艶やかな短い髪が涼風になびき程よく健康的に日焼けした肌は眩しくなんだか海の家でよく食べる焼きそばのような色だった。

 そんな彼女は俺にいつも話しかける。

 他愛もない話だ。

 彼女の声は風鈴のように高くてどこか透き通った声だ。

 彼女との無言の時間が何より好きで彼女が時折思いついたように声を出す。

 風鈴がそよ風にあたって小さく鳴るように。

 彼女の黒い瞳が好きだ。

 彼女の白い歯が好きだ。

 彼女の言葉は丸く、でも細長く紡がれる。

 まるでそれはラムネの瓶のように。

 僕は彼女のことをよく知っている。

 彼女も僕のことをよく知っている。

 幼馴染だから知っているのとも違う。

 夏だから暑いと呼ばれるような単純な論理の帰結で僕らの関係は言い表せない。

 僕の口からでて彼女に届くようにと言おうとした言葉はまるでラムネの炭酸のようにちいさくパチパチと弾ける。

 彼女の言葉をドキドキしながらまっている時間。

 それは喉をとおるラムネの炭酸の快感のように押し寄せる気持ち。

 青春の光というくさい表現で言い表せないけれど。

 からんころんと笑って眩しく彼女の笑顔はラムネだ。

 僕はラムネが好きだ。

 彼女は僕のことをどう思っているのだろうか。

 でも彼女はいうのだ。

 僕が不安にさいなまれくじけそうなときも。

「大丈夫」。

 その言葉だけで僕は救われた。

 あおい言葉は空に広がり、あおい僕らの心はラムネのガラス瓶のようにもろくて輝いている。

 ―――――僕は彼女への想いをさりげなく口にする。

 彼女は笑って僕と一緒に買ったラムネを飲む。

 ラムネが喉を通る動きを目で追いながら僕は思う。

 はじけて、まざりあい、通り抜けていく。


 そんな思いが甘く透き通ったものだと信じて僕は笑う。


 笑って僕は残りのラムネを一気に飲んだ。


 ―――――世界には二人と二本のラムネ。


 それだけだった。


 でもそれでいいんだ。


 二人の持つラムネが重なり光が灯る。


 ―――――FIN。

 

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ラムネ ビートルズキン @beatleskin

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