第9話-1

追憶の焦点

第3章 皇女の守護者


3.明かされた事実


 ミーシャは新室にむろ未希みきから実母の生前の話を聞いていた。

「母は日本ふるさとにいた頃の話をあまりしてくれませんでした、理由が分かったような気がしますが…」

「………」

 新室はミーシャに返す言葉がなかった。

「あなたのお母さんはホステス時代、モナクライナ皇帝に気に入られて、結婚までに至ったようね」

 ミーシャの母親、優美ゆうみはモナクライナ皇帝の愛人の時期があったが、その話はミーシャの前で伏せていた。


「母が望んでいたことなんでしょうか?」

「どうかな…明るく喋っていたけど、ほっとして、吹っ切れていたように思えたけど…」

「そうですか…新室さんはどう思いました?」

「え?」

 新室は不意を突かれて、ミーシャの質問をちゃんと聞いていなかった。

「母はあなたと結ばれていたかもしれないのよ、どうして別れたの?」

「…ふ」 

 新室はミーシャの質問を馬鹿馬鹿しく思い、つい笑みがこぼれていた。


「何がおかしいの?」

「変なだな、真剣な顔でおかしなことを訊くね」

「確かにあなたが母と結ばれていたら私は存在しないけど、なんか納得いかなくてね…母の決断をどう思ったの?」

彼女たにんが決めたことに意見する気はない、立派に皇族夫人を務めて、君が生をけた、亡くなったのは残念だが…」

「母を愛していたの?」

「………」

 新室はミーシャの質問で困惑していた、彼なりにいろいろと事情があるようだった。過去に遡る。


 モナクライナ皇族が帰国する日。優美も皇帝の婚約者として一緒に航空機に搭乗していた。離陸時間が迫り、優美たちを乗せた航空機は飛び立っていくが…


 空港展望デッキには新室の姿があった。彼の表情には若干切なさが滲み出ており、静かに優美を見送った。

 新室の恋愛遍歴はさておき、彼は結婚間近の時期があった。


 新室が新人刑事だった頃、彼は常連で通う居酒屋の女性店員と交際していた。二人の関係は良好で結婚は秒読みであったが…


 それは突然のことであった。新室の婚約者は逃走中の強盗団の車両にかれてしまい、そのまま帰らぬ人となった。一種のトラウマに陥り、彼は結婚に対して臆病になっていた。

 新室はミーシャに事実を明かすことはなかった。

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