だから甘いチョコレートは義理なんです!〜究極の惚れ薬を添えて〜

花月夜れん

――

 高校生活始まって二回目の今日この日。バレンタインデー。

 放課後を迎え、あちこちで受け渡しが始まった。すでに何人かが朝から受取済みなのも把握済みだ。

 ちなみに朝から机をチェックしたり下駄箱を何度も確認したりしていた空野理久はまだ0個。

 空野理久、唯一の希望は毎年配り歩く交友関係広すぎな幼なじみ、中野梨里からの義理チョコだけ。


「はいどうぞ。はいどうぞ」


 彼女が紙袋を手にチョコを配り始めた。

 それに並ぶ彼女と仲がいい男友だち、女友だち。そして空野理久。

 彼女は可愛い小袋に包まれたチョコをどんどん配っていく。

 きたぞ、空野理久の番。


「ありがとうございます」


 受け取ってすぐ手を引っ込める。だけど、空野理久の手の中に、あったはずのチョコが消えた。

 どういうことだ? 確かに受け取ったはずなのに!!


「どいてくれるかな。次の人に渡したいんだけど」


「ちょ、ちょっ」


「何?」


「何でもないです……」


 去年のバレンタインから彼女の空野理久へのあたりが強くなった気がする。

 彼女からもらえないということは、ついに義理チョコすら一個ももらえない年に突入である。

 小さい時から家が近いということでもらえていた。

 そう、ただそれだけ……。


(なのに、なんでこんなに悲しいんだぁぁぁぁぁぁ)


 空野理久はフラフラと家路につく。へへっと燃え尽きたような表情を浮かべる。

 そこに女神が現れる。


「理久のはコレだから」


 中野梨里が小さめの紙袋を掲げて待っていた。

 これは!?

 まさか本命チョコに格上げか? 幼なじみから恋人に移行!?

 空野理久は彼女からチョコらしき紙袋を受け取る。


「ここで食べて欲しいな」


 中野梨里のお願いに頷き空野理久はそれの包みを開いた。


 ◆


 中野梨里、高校二年生のバレンタインデー前日。

 ずっと本命チョコを渡せないまま義理チョコと称して好きな人にチョコを渡していた。

 今年こそちゃんと本命チョコを作ろう。

 沢山集めた彼のデータ。好きな食べ物、辛いラーメンや辛いカレー。嫌いな食べ物、甘ったるいお菓子。

 いきなり膝を折りそうになる。

 ダメよ、中野梨里。諦めちゃダメ!

 チョコはブラックにすればいい。

 トッピングや隠し味で本命感を出そう。彼の好きな食べ物リストに目を通す。これならきっとただの義理チョコだなんて思わないはずだ。

 燃えるような恋になるように特別な想いを込めた惚れ薬を一滴。


「明日、頑張るぞ!!」


 中野梨里は気合をいれた。

 そして当日、義理チョコを渡さず本命チョコを構える。

 来た。彼、幼なじみの空野理久だ。


「理久のはコレだから」


 本命チョコを手渡すと空野理久の顔が明るくなった気がする。もしかして、理久も?

 ドキドキが止まらない。


「ここで食べて欲しいな」


 中野梨里はお願いする。彼は頷き口に運んだ。


(うふふ、これで今日から私たち……)


 ◆


 次の日、空野理久と中野梨里は仲良く教室に入場した。教室内がざわりとどよめく。

 その原因は二人のひっつき具合だったのか。それとも、空野理久の腫れ上がった唇だったのか……。

 定かではない。


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