⑫完

 乃兎の後に付いて行くと、一件のお店に案内された。この町に来たばかりの彼女に案内されるというのは、なんだか不思議な気分だ。


「こんな店あったかしら?」


 立て看板が置いてあり、テラス席もある。どうやら、外観から見ると、カフェみたいだけど。


「店内を見てごらんよ」


 そう言われて、中を見ると、ガラス越しに、店内が見えた。そして、その店内で見知った人物を見た。


「た、大将⁉」


 大将が、いつもの仕事着とは違い、白シャツに黒ズボン、エプロンを着けて働いていた。


「ど、どういう事⁉」


 退院した後は、タウン誌の発行に向けて、会いに行けなかったのだが、どうして、大将がここで?


「ここはね、最近オープンしたんだよ。店長は、四件目のカフェの店長さ」

「えっ」

「彼はね、退院すると、被害に遭った店舗の人に会って謝罪をしに行ったんだよ。まあ、事故として処理されているし、彼が直接火を点けたわけではないから、証拠もない。結果的に門前払いばかりだったらしい。本当の事を言ったって、信じて貰えるわけない」

「じゃあ、なんで」

「彼はけじめだって言ってたよ。自己満足だと判っていても、行動せずにはいられなかったんだ」


 大将らしいと思う。だけど、それがなぜ、ここで働く事に?


「四件目の店長に謝罪をしに行った時、提案されたらしいよ。前の店ではランチとして軽食しか提供出来なかった。それは、自分に料理を作るスキルが無いから。だから、この町で長年培ってきた彼の腕を貸して欲しいってね。その提案を彼は、受け入れたってわけ」

「贖罪の為にって事?」

「だろうね。でも、彼はこの町でその腕を振るえる」

「うん」


 やっぱり、大将は、厨房に立って居る姿によく似合う。


「ちなみに、店長さんがその提案をしたのは、今回、キミが書いたタウン誌の特集を見たからだそうだよ」

「……えっ?」

「良かったね」


 私の書いた事がきっかけで。私は、やっぱりこう思った。あのタウン誌は必要な物だ、と。


「さて、ここのランチは好評らしいんだ。食べないわけにはいかないね」


 そう言って彼女は、店内へと入るべく、歩き始める。


「ちょっと、待って、私も」


 私も彼女の後を追う。そして、絶対にこの店の特集を組もうと心に決めた、このタウン誌を失くしてはいけない。


 そう心に決めた私は、後日、上司に直談判しに行ったら、


「はあ、終わらないぞ」

「えっ? で、でも、この前終わってしまうって……」


 私の言葉に、上司は考えると、手をポンと叩く。


「ああー。今、流行っているドラマの事か。勧められて見たら、これが面白くてな。それが最終回を迎えるってんで、その事を話をしていたんだ」

「………………」


 そんな、オチかよ!!!!!! 私の想像もまた、こうして現実になったのであった。

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創想像 ー白詩乃兎の仕事ー 雲川空 @sora373

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