第28話 勇者、気になる。

 ◇



「おい残念聖女。お前の中身、マジで王国騎士団の副団長なのかよ? それとも、下級モンスターの大群にヒヨるほど王国騎士団っつーのは雑魚い集団なのか? やる気ねーなら抜けろよ」


 やや半壊気味の酒場内にて、王子と共に俺の傷の手当てをしていたシド先輩が、出し抜けに言った。


「……」


「ちょ、シド先輩、何もそこまで言わなくてもって……って、痛てててて……!」


「はー……ったく、コーハイくんも甘いんだよ。下手すりゃお前、死んでたかもしれないんだぜ? 顔は可愛くても中身は男なんだからバシッと言ってやればいいんだよ」


「い、いやあ、確かにマジで死ぬかとは思いましたけど、王子の毒のお陰で助かりましたし……ねえ、王子?」


「……ん? ああ、まあな。あんな毒、朝飯前だ」


 どんな朝飯前なんだよとツッコもうとしてやめた。俺のツッコミよりも早くに、なおも不満そうなシド先輩が口を挟んで現実を突きつける。


「王子もさー。黙ってないでなんかいってやれば? まだ調査中とはいえ、一応、そいつの中身はヴァリアントに忠誠を誓った騎士なんだろ?」


「……」


「王子の身に危険が迫ったっつーのに剣すら抜けず、ただ突っ立ってるだけでなんの役にも立たねえとか、せっかく温情をかけて仲間にしてやったってーのに期待外れもいいところっしょ。……まあ、『好きな女の体で戦う・・・・・・・・・』だなんて難儀なこと、普通に考えてやりづれえだろうし、俺は最初からこうなるんじゃないかとは予想してたけどな」


 ああ、そうか。だからシド先輩、アリアの加入に難色を示していたのか。


 考えてみりゃそうだよな。体格差で剣を扱いにくいとかそれ以前に、好きな子の体に傷をつけてしまったら……とか。そういう不安が絶えないに違いない。


「ただでさえ神聖魔法が使えないポンコツ聖女で、唯一の武器である剣まで使えないなんて中途半端なヤツ、ゴミ以下のお荷物にしかならねーぞ」


「ちょ、ちょっとシド先輩! 言い過ぎですって」


「事実は事実だろ。こちとら命はってんだしやることやってもらわねーと」


 押し黙るアリアを前に、命に関わることだからか今日はシド先輩の毒舌が冴えまくっている。


「……」


 指摘されてもなお、王子も何も言わなかった。見限ってしまったのか、あるいは、何か考えていることがあるのだろうか?


 いずれにせよ〝無言〟という返事が余計に身に染みるようで、それまで唇をかみしめて俯いていたアリアが不意に背を向けてスタスタとホールを出ていく。


「あっ、ちょ……」


「ほっとけよ。コーハイくんは怪我してんだし、これはアイツ自身の問題だと思うけど」


「それは……そうすけど……」


 シド先輩の指摘はもっともだ。


 今のままでは王子の信用を失うだけで彼のためにもならないし、もちろんパーティのためにもならない。俺が口を出したところでどうなるモンでもないことはわかっているんだけど……でも。


「……でも、俺、やっぱり気になるんで。ちょっと行ってくるっす」


 こういう時、どうしても放っておけないのが俺の性分なのである。


 苦笑を滲ませながら正直に告げて立ち上がると、シド先輩は「ったくお人よしだなキミは」と、半分呆れたように吐き捨てつつも、ソファに寝そべって弦楽器の調整を始めた。


「またいつ奴らが襲ってくるかわからないんだし、甘やかすのもほどほどにな」


「うす」


 そんなシド先輩の独り言のような助言に背を押されつつ、俺は、その場に王子とシド先輩を残して、怪我した体を引き摺りながらアリアが入っていった倉庫部屋に向かった。

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