ほむらの弓

藤棚更紗

第1話 潜む影達

ありふれた毎日。

そう、何事もなく平凡な毎日を送っていた姉妹の

唐突に巻き込まれた、ある星のある世界線での記録をここに記そう。



ここは、地球とよく似ているが違う惑星である龍星。

龍星と書いて、‘ロンシェグ‘と読むのだがそれはこの国にとっては

外国語にあたる。

この国では、‘たつぼし‘と読む。

そう、地球でいうところの日本と同じだ。

だからと言って、地球の日本と言葉が通じるかというと

おそらく、てんで通じないだろう。

家のある表札を見てみても、字体すら凡そ似ていない。

この国の名前は、倭と書いて‘やまと‘と読む。

割と大きな島国で、地球で言えばオーストラリア位はあるだろう。

この星は、倭の他にあと2つ大陸がある。

国は倭を含めて、5つしかないが言語が違う事や宗教が違う事で

争いは生まれない。

この星の民は、至って平和的解決を選択するからだ。

相手の国の事をよく理解し、話し合って協議し結論に至る。

そう、思っていた。

と、いうかこれがこの星の通常認識だった。

そう、その日までは…。


「行ってきまーす!」

元気な声とともに、ある家の玄関の扉があき中学生と思われる制服を着た

短い赤い髪の女の子が飛び出してくる。

「あ、ちょっとまってぇ~!お母さん、行ってきまぁす。」

その後を追いかけて出てきたのは、少し藤色がかった長い髪を片方でおさげにまとめている大人しそうな女の子。

いかにもお嬢様といった雰囲気だ。

「絢子お姉ちゃん、早くいかないとバス出ちゃうよ!」

「涼ちゃん、待ってぇ~。」

妹の張りのある声に比べて、姉はほんわかふんわりした柔らかい声。

対照的だが、2人ともルックス・マスクともに結構モテそうな感じの女子である。

「もうー、お姉ちゃんがご飯のんびり食べてるからこうなるんだよー!

 朝ご飯なんてパンでいいんだよパンで!」

「私、朝はご飯がいいんだもの。そういう事言ってるから、発育が

中途半端なのよぉー。」

その姉の言葉に、妹は走るのをやめて踵を返す。

「おねぇちゃぁん?僕はねぇ、必要以上のカロリーは摂取しないって決めてるの!」

「人生、半分以上損してると思うわぁ、涼ちゃんて。」

姉は、ふぅ、とため息をついて妹の肩に手をポンと置いた。

「いいんだ、社会人になったら倍楽しむし。今は今でしかできない事をやる。

大会近いし、お姉ちゃんはレギュラー確定だからいいかもしれないけど僕はまだまだレギュラーとはいえ練習不足だし。」

姉に促された妹は、バス停に向かってまた歩き出す。

「大会…私、出れるかしら…だって…。」

「少しの運動ならいいって、お医者さんに言われたならいいんじゃない?」

「うん、そうなんだけど…。」

「何、圭吾さんに何か言われた?」

妹がそう聞くと、姉は表情を曇らせた。

「学業はいいけど、子供ができたなら部活はやらないほうがいいって…。」

中学校の制服着てるのに、子供?何かおかしいと思った方もいるだろう。

もう少し、この星とこの国に関して語ることにしよう。

この星の生命体の寿命はかなり短くて、老いはしないものの

長く生きられても50年。

51にでもなれば、寿命の最高記録更新なのだ。

ゆえに、どの国でも結婚出産は早い傾向にある。

この国では学生結婚は認められており、12歳で成人である。

成人した男女は、両親の許しなしでも家庭を持つことが出来る制度が

この国にはある。

同性でも結婚は許されており、子供が必要な場合は孤児院などから養子をもらう

制度も整っている。何なら、その養子を後添いにすることも可能である。

因みに、寿命が短い分発育はけしからん。

具体的に言えば、地球の日本人の高校生がこの星の倭という国の中学生くらいと思っていただければ相違ない。

成長は、生まれて半年で立ち1歳で歩き、ママ、パパ、などの簡単な言葉は発する。

2歳になると保育園で走り回ったりお友達ができて言葉も達者になる。

3歳で小学生になり、12歳(成人)で卒業なのでそこから就職する人間も多い。

進学する者のほうが最近は増えたが、まだまだ少ない。

社会に出て働き、早めに結婚する者が多いからだ。

もちろん、離婚率も高いがそれはそれとしてきちんと制度ができているので問題ない。

それに何よりお互いが若いので何度でもやり直しがきく上に、この星の大概の国は

一夫多妻制の一婦多夫制である。

要するに、恋愛惑星であり性にはおおらかというかあまり厳しくない。

親じゃなければ性行為をしても構わない、位のものだ。

もちろん、生涯この人とだけと決めて一夫一婦制を貫く珍しい夫婦もいる。

この2人の両親は、その珍しい夫婦の1組だった。

なので、この2人も勿論そうしたいと思っているようであり姉の方は成人してから

出会って付き合い始めた男性と既に結婚して妊娠中である。

つまり学生結婚なのだ。

妊娠7か月までは通常の生徒と同じ扱いになるが、妊娠7か月を過ぎると基本的には

学業は休暇で公休扱い、育児休暇制度もばっちりだ。

夫である男性にも育児休暇は与えられる。

出産、育児などすべては国の援助で賄っているため何人でも無料で産める。

夫婦だけに限定されるが産み放題…結婚できない理由や障害などないからだ。

子供が産めない女性はどうなるのか。

もし、何等かが原因で産めないとわかれば多妻な者に嫁ぐかあるいは一人身で生きるか、子供はいらないという者を選ぶか…。

もしくはすべてを捨てて修道院に入るかである。

「あ、お姉ちゃん!バス来たよ!」

まだバス停にはついていない。

妹、緋山涼ひやまりょうは、バス停向かって駆け出した。

「バス、止めておくからお姉ちゃんはゆっくり来て!妊婦なんですって話せば

待ってくれるから!」

振り向きそう言うと、また走りだす。

「うん、ありがとうね涼ちゃん。」

姉、楓絢子かえであやこ(旧姓:緋)は少し急ぎ足でバス停に向かう。

ちなみに、絢子は現在妊娠3か月である。

夫の楓圭吾かえでけいごは、違う中学の三年生であり緋山の家で暮らしている。

それが、双方の家の条件であったからだ。

圭吾は3男で、家を継ぐ必要はないし楓家は大所帯だったので嫁が来ても新しい部屋が用意できないという理由もあっての事だった。

そんな二人の出会いは、ありがちな部活の県大会だ。

お互い、ひとめぼれだったらしい。

出会ったのが中学一年の最初の練習試合、それからしばらくしてインターハイで一緒になった際に圭吾が告白。

両想い同士だったので、そこでお付き合いが確定→愛を育み、3年目に妊娠が発覚→すぐに籍を入れ結婚。と、トントン拍子に事は運んだ。

ただ、結婚式と新婚旅行はお互い卒業してから、という計画。

ちなみに、部活は弓道部だ。

さて、彼らの事情はさておき。

ようやくバスに乗った2人は、定期券を見せ座席に座った。

バスの運転手は、それを確認するとドアを閉じるボタンを押し

発車させる。


そのバスを、サングラスをかけた黒いスーツの男がひそかに見送っていた。

彼はサングラスをはずし、ニヤリと笑いを浮かべる。

「あれが、そうか…。」

そういって、バスが行った方向とは反対のに歩いていく。

静かに黒い車が進んできて、ドアが開いた。

「間違い、ないですか?」

車の中から、彼よりも少し若い男の声がする。

「ああ…十中八九な…。あとは、誘いに応じてくれるかどうか、だが…。」

「何せ、敵対している学校といいますからね…表面上はそう見えないかもしれませんが、難しいとは思います…。」

「なぁに、承諾を得られなかったら…消えてもらうだけだ。」

言いつつ、車に乗り込んだ。

車が去った後には、静かないつもの住宅街の穏やかな時間だけが

流れていた。

















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ほむらの弓 藤棚更紗 @neko96_ginhime

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