10話▶️夜の女子会

 日中、騒がしい他クラスの子と絡んで、少し疲れ気味だった私。後片付けを終え、ロッジへと戻る道中、今日の事を振り返りながら歩いていた。


――昼間は疲れた。柄にもなく包丁さばきを教えるだなんて……。ってか野辺の爪、……キレイだったなぁ。メイクもそんなに派手じゃなかったし……。むしろ、可愛かった。あぁいう子がモテるんだろうなぁ……。


「は、何言ってんの!」


 頭を左右に振り、記憶に残る彼女を消し去るようにした。

 人は人、私は私―—。

 いつも言い聞かせてはいるものの、やはり他人の目は気になるもので、ついつい誰かと比べてしまう性格らしい。


 夜に行われたレクリエーションの司会・進行も上手くできていたか記憶にない。ただたんに「次の班の方どうぞ」と言っていただけだ。隣では私よりも一生懸命に任務を遂行する神蔵の姿があった。


――神蔵、自分では陰キャとか言ってるけど、意外とクラスメイトとも馴染んでるんだよなぁ……。私とは違うなぁ……。


「あっ!雫石さんやっと来た!」


 声のする方を見ると、ロッジの前で何人かの女子たちが私を待っていたようだ。


「私たち、同じ部屋でしょ。雫石さんの片付けが終わるのを待って、一緒にお風呂に行こうと思って、みんなで待ってたの」

「雫石さん帰ってきたよ~」

「おっけ~」


 2組の女子は全員合わせても14人。7人ずつ分かれてロッジへ泊まることとなり、事前にグループ分けをしていた。


「遅くなってごめん……」

「なんで雫石さんが謝るの?学級委員で忙しいんだし、仕方ないよ」

「……ありがと」

「ほらほら、お風呂に行く準備して!上がったら消灯までの間、2組の女子だけで集まることになってるから~」

「えっ?」

「夜の女子会だよぉ」

「ほらほら~レッツゴー!」


 きゃぴきゃぴしながら大浴場へ向かう彼女たちは、私とは住む世界が違うのではないかとさえ思えた。

 

 もともと集団行動が苦手な私は、中学までは友人と呼べる人はほとんどいなかった。「自分自身が変わらなければ、いつまで経っても殻に閉じこもったままだよ」姉に言われた言葉で変わろうと思い、中学時代にようやく友人ができた。その友人は、親の転勤で遠方に引っ越してしまったのだが、こうして高校で新たに交友関係が結べそうなのは……いいことだろう。


――何事も前向きにいかないと。


 同じグループ内の子たちと一緒に大浴場へと向かい、1日の疲れを癒す。


「大浴場って、こうやって皆で入れるからいいよね~」

「わかる!1人1人入ると時間かかるもんね」

「あっ!化粧落とし忘れたぁ」

「私の使っていいよ」

「ありがとぅ」


――皆、打ち解けてるな……。そしてたまに入ってくる女子ならではトーク……。大きいだの、柔らかいだの……。それ褒め言葉なのか?!


「ねね、雫石さんがしてる、その裾インナーカラー、誰か推しでもいるの?」

「えっ?あ、これ……これは……その……アニメキャラのメンバーカラーなんだ……」

「へぇ~素敵!私もいつかしてみたいなぁ!推しカラーでメッシュとか入れたい!」

「何の話ぃ?」

「雫石さんのカラーの話!」

「いいねぇ。私、親がうるさくて長期の休みしかしたらだめ、って言われてる」

「うちも~」


 女子ならでは、というべきか、……皆が自由に話す雰囲気が新鮮であり、私にとってはすごく楽しいひと時となった。


 更衣室内でも会話が止まることはなく、すっぴん顔に関するトークが繰り広げられていた。



◇◆◇◆——


 ロッジに戻ると、もう片方のグループの子たちがすでに集まっていた。


「ちょっと遅すぎ~」

「どんだけ長風呂してんのよぉ」

「ごめんって。色々喋ってたら遅くなった」

「はいはい、早く座って~」


 促されるように床へ座り、私たちは女子会を始めた。

 

「ねね、この中で彼氏いる人ぉ、挙手!」


 14人中、なんと5人が手を挙げた!


――意外と多い!


「同じ高校?」

「どこで知り合ったの?」

「どっちから告ったの?」

「写真とかないの~」

「キャー。めちゃくちゃラブラブや~ん!」


――彼氏がいるだけでこんなにも質問攻めに合うのか……。恐るべし……。


 一通り聞き終わると、今度はクラスの男子について話が始まった。


「同じクラスでこの人いいなぁ、って思う人いる?」

「う~ん……私、大八木くんとか一緒にいて楽しそう、って思うかも!」

「大八木くんかぁ……確かにわからなくもないけど……」

「私は、神蔵くん、かっこいいと思うけどなぁ」

「確かに!なんか落ち着いてていいよね!」

「ってか、雫石さんって大八木くんとも神蔵くんとも仲良いよね!ご飯も一緒に食べてるし」


―—なんというとばっちり!それに、何か語弊があるのではないか……?!


「仲は……いいけど、ご飯は一緒に食べてないよ!席が近いから喋るくらい……」

「神蔵くんとは学級委員で一緒だもんねぇ。ねね、どんな感じ?優しい?」

「あぁ、……うん。率先して色々してくれる……かな」

「まじかぁ!けどな~共通点がないと話が続かなさそう……」

「わかる~」

「私、今度話しかけてみようかな!」

「いいじゃんいいじゃん!いけいけ~」


 ズキッ―—


―—ん?胸のあたりが一瞬痛んだ……ような……。なんで?


 この後も担任が見回りに来るまでガールズトークは続き、消灯時間を機にお開きとなった。


―—それにしても、さっきの痛みは何だったんだろう……。


 私がこの痛みに気付くのは、もう少し後のことだった。





 


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