9話▶️見かけによらず家庭的

 雫石さんとともに1組と3組の学級委員が待つエリアへと向かうと、案の上と言うべきか、見覚えのある2人の姿があった。


「おっ、やっぱし君たちと一緒だったんだぁ。よろしく~」

「……よろしく」


 大きく手を振り、俺たちを迎えてくれているが、雫石さんは至って冷静……というべきか、視界に入れてないようだった。


「2組の神蔵と雫石です。よろしくお願いします」

「3組の金森かなもり田邊たなべです」

「1っ組の竹中たけなか野辺のべでぇす」


 簡単に自己紹介を終えた俺たちは、早速調理へととりかかった。


「料理とか普段からしないし~野菜とかってどうやって切るの~」

「俺もわっかんなぁい」

「だったら、野菜の下準備とかはこっちでするから、竹中くんと野辺さんはご飯……炊いてくれる?」

「りょっ!……つっても、それすらわっかんないわぁ」

「……」


―—なんだこの重たい空気は……。こんなことを言ってはいけないとわかっているのだが、言わざるを得なくないか?協力どころかむしろ、足手まといです……と。


「じゃ、じゃあ、私と一緒にご飯を炊く準備をしませんか。私、よくキャンプするので、ご飯の炊き方教えることできますし」


―—金森さんのナイスフォロー!!機転が利くと言いますか……さすがですっ!


 ふぅ、と一息吐き、ちらっと隣で野菜を洗っている雫石さんの方を気にかけてみた。


「……何?」

「あっ、いや……何でも……」

「1組の2人、今時の高校生って感じだよね」

「えっ?」

「明るいし、できないことははっきり言う。積極的にコミュニケーションも取ろうとしてる。……なのに、私は自分で壁を作ってしまう……」

「べ、別に、そこまで気にしなくてもいいと思うよ。皆が皆、仲良くなんてできないんだし……」

「ふふ、神蔵ならそう言うと思った」

「あ、あははははは」

「よし、これで一通り洗えたし、田邊くんのところ行こっか」

「うん」


 ざるに洗い終えた野菜を詰め込み、雫石さんと俺は調理台へと戻ることにした。


 キャンプ飯の定番といえば、カレーになるのはなぜなのか。俺はいつも疑問に思いつつも、美味しければ何でもいいかと適当に自分自身を納得させていた。


「そういえば、雫石さんって、家で料理するの?」

「たまにするよ」

「やっぱり。手慣れてる感じがする」

「そういう神蔵だって手慣れてるじゃん」

「そうかなぁ」

「野菜の切り方、私よりもリズミカルだし、早い」

「……お褒めに預かり光栄です」


―—雫石さんに褒められると、なんだか胸のあたりがむずむずする……でも嫌じゃない!


「うわっ、マジで手慣れてるぅ」


 雫石さんの隣から、ひょっこりと顔を出す野辺さんは包丁さばきをまじまじと見ながら言った。


「ちょっ!急に顔出すな!危ないだろ!」

「ごめ~んって」

「……」

「そんなに怒んなくてもいいんでない」

「別に……悪気がないなら……いいよ」

「ねね、あたしもやりたい!」

「は?包丁、持ったことあんの?」

「ないけど、いけるっしょ!」

「いけるっしょって……。ってか、野辺さんってさっき、ごはん炊きに行ったんじゃないの?」


―—そう言えば……3組の金森さんがフォローしてくれてるはず……だよね?


 ふと気になり、後ろを振り向いてみると、金森さんと竹中くんが2人で何やら楽しそうにお喋りをしている姿があった。


「竹ちゃん、誰とでも仲良くできるし、今はあたしがいない方がいいかな~って。安心して!ご飯はちゃんと炊けてるから」


 片目ウインクパチっ―—


―—眩しい……これぞ、典型的なギャルパワー。……俺には眩しすぎる!


「指には気をつけて!猫の手だよ」


 人参を切ろうとしている野辺さんに向かって雫石さんが言葉で教えようとしていた。


「ねこのて、って何っ?」

「指先を、こうやって丸めるの!じゃないと、指先切り落とすよ!」


――切り落とすって……そんなオーバーな。


 雫石さんが指先を丸め、野辺さんに手本を示しながら一生懸命教えていた。見る限り、確かに野辺さんの包丁さばきはヒヤヒヤすることが多く、その度に雫石さんが慌てふためくようにフォローしていた。


――いつもとは違う雫石さん……。なんかいいなぁ……。


「神蔵くんっ!」

「ふぇっ?!」

「ぼーっとしてると、神蔵くんの指がカレーの中に入っちゃうよ!」


 田邊くんに指摘されるまでジャガイモと一緒に俺自身の指を切り落とすところだった。


「ちょっと、指なんてマジ勘弁だかんね~何ぼ~っとしてたんよぉ。もしかして、あたしの包丁さばきに見惚れたのかなぁ?」

「野辺は自分のことに集中しろっ!」


――雫石さんに見惚れていたなんて、口が裂けても言えないわ!


 頬を少し赤らめながら、俺は目の前のジャガイモと向き合うことにしたのだった。


 始めは距離を感じていた面々とも、次第に打ち解けることができ、何事もなく美味しいカレーを完成させることができたのだった。










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