第18話 呼吸無双


 爪田が鉈状の武器を振り回してくる!


「あのさあ。君は嘘つきなのよ」


 俺は応えない。言わせておく。


「毒沼竜を倒したのは毒島さんだったってのによぉ。君ごとき雑魚がしゃしゃりでてくるからこうなるのよ」


 周囲を囲む部下は次々に武器を取り出す。


 斧、剣、弓、メイス、鉈、ハルバード、ショーテル、居合い刀、魔導書。よりどりみどりだ。


 俺は徒手空拳で構える。


「ここにいる奴らは全員高レベルだぜ」


 高レベルと聞いて俺は抜け目なく警戒する。


 金と権力の力でレベル90代にまであがっていたなら、考えて闘わなければならない。


「もう俺らは全員が……。レベル30台だぜ!」


 拍子抜けしたので、はぁ、とため息がでた。


「……悪いが帰ってくれないか? 殺したくないんだ」


「君さーぁ。自分の状況わかってる?」


「警告はした」


「〈肺活量君〉の癖にイキってんっじゃねーぞ!」


 俺は覚悟を決めた。

 呼吸の力を試す良い機会だ。


「ふっ!」


 俺の呼気で斧を持った一人が吹き飛ぶ。


『がはっ!』

『な、なんだ?』


 残る8人が驚愕して足を止めた。


 俺が何をしたのかさえわからなかったのだろう。


 俺は状況をみつつ、自分の変化も感じる。



――【アーツのクラフトが可能になりました】――



 パラメータ項目に【アーツ】が生まれる。



神裂アルト レベル51 ブレスマスター


HP 1230

MP 907

TP 707

攻撃 988(最大2964)

防御 783

魔攻 533

魔防 533

素早さ 988

運命力 0

体格 50

移動 50


【バイタル】グリーン

【スキル】呼吸

【アビリティ】不運、強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知、身体強化、イノベーション進化、アビス適性、

【ギフト】カナリア、ブレスマスター、

【アーツ】←new


 アーツとは要するに戦闘技能の事だろう。


 スキルが〈大きな項目〉の技能だとすれば、アーツはスキルから派生した〈戦闘専門の技能〉だと解釈する。



【アーツクラフト(入力)】



 〈クラフト〉ということは、『アーツを造れる』ということだろうか。


(なるほど。本来は一定の戦闘を繰り返す中で〈アーツクラフト〉が発生するんだろうな)


 これは推測だが、俺は武器もなしで徒手空拳のまま急成長をした。


 正規の手順を飛ばし超成長したために、アーツの発生が遅れたのだおる。


(イレギュラーでも順調ということだ)


 俺はアーツに名前をつける。



――【〈アーツ登録〉ウィンドブレス】――



 息で吹き飛ばす技は〈ウィンドブレス〉と名付けた。


 残る8人を俺を囲みじりじりと近づいてくる。


『爪田さん。あいつなんか使いますぜ』

『突風みたいなものが飛んできたぞ!』

『雑魚じゃないっすよ、爪田さん』


 部下達は賢明だが爪田は歯がみしながら、


「偶然だろ。舐められてんだよぉ!」


 意味不明な感想を浮かべる。


「全員でかかっぞ!」


 8人が各々武器を構え、俺に突貫してくる。


「数で勝つ方が勝ちなんだよ! 斬殺してやる!」


 俺はタキナと出会ったときの〈息弾〉を放つ。


「ブレスバレット」


【ブレスバレット】もアーツに登録される。


――【アーツ登録〈ブレスバレット〉】――


 ボッと音を立て、空気弾が発射。


『ギャアァア?!』

『グアァアア?!』

『見えない攻撃で流血ダト?!』


「こっちだってアーツは覚えてるんだよぉ!」


 爪田は鉈を振り回す。


「鉈回転斬りだ!」


 鉈を持った浅黒い細身金髪の男が、ぐるぐるぐると回転し迫る!


 部下もまた連続で迫ってくる。


「ジャンプ斬りだ!」「斧乱舞だ!」


「連続突き!」「眉間打ちだ!」


 ブレスバレットは牽制にはなるが、威力は弱い。


 俺は大きく息を吸い込む。


「ブレスウェーブ・ヴォイス」


 そして声を音波に変え、吐き出した。


「亞ッッッ!」


 という大声と共に、波動が周囲に響き渡る!


 俺を取り囲んでいた男達は音の波動で全身を硬直。


 8人全員が一撃で鼓膜を破られ、失神した。


『何も、聞こえ、ねえ』

『どう、なって?』


 爪田と8人の部下はうずくまる。


 遠くでごごごごと音が響く。


 俺の波動は強い低周波も含まれているようだ。

 洞窟の向こうでは、音の波動を受けて、何かが目覚めたようだ。


「ま、さ、か?〈奈落の竜〉が目覚めたのか?」


 爪田が絶望の声を浮かべる。


 男達が開拓していた道の先から……。


 毒沼竜のサイズを超える、異形の竜が顔を出した。


「なんてことしてくれたんだよ、肺活量君……。奈落の竜は属性適応作用を持っていて、全属性を持つ。リスタルの街では目覚めさせるのは禁忌って言われたんだ。だから俺達はここで止まっていたのに?」


「知らねーよ。俺をハブったのはお前らだろ?」


 俺は侮蔑の眼差しで爪田ら開拓団を見おろす。


「なんてものを目覚めさせやがったんだ!」


 爪田は遠くの奈落竜を見て、怯えきっている。


 部下も同様だ。絶望に武器を堕としていた。


「なぁ、助けてくれよ。肺活量君……」


「名前」


「え?」


「俺の名前を言ってみろよ」


「神裂アルト、です」


「様をつけろよ」


「神裂アルト様です!」


 変わり身の速さに俺は軽蔑する。


 結局こいつも、強い奴に隠れなきゃ何もできない。


 巾着みたいな人間だった、というわけだ。


「助けて」


「ぁ?」


「助けて、ください……」


「ここには都合のいい抜け道はねーよ。全員で闘うしか無い。今まで争っていたとしてもな」


 俺の言い分が正論だ。


 だが爪田パーティは全員が無策だった。


「うううう。畜生ぉおお! 逃げるしかねえ!逃げ、逃げ逃げ!」


 背中を向けて逃げ出すパーティ達。


 俺はあえて、奈落竜を正面から見据える。


 氷のブレスだ。


 洞窟そのものが凍る威力だと呼吸感知で理解する。


「ヒートブレス・レイヤー」


 逃げは下策だ。


 俺は体温を込めたブレスを吐き出し、空気の膜を前方に形成。


 氷のブレスの波濤が俺を包むも、俺もまた全力のブレスで防ぎきった。


「あいつらは、駄目か」


 爪田達パーティは背中を向けたせいで、氷漬けにされていた。


『あ、か……』

『き、か、は……』


 声も出せないほど氷漬けにされている。


 俺もまた限界状況だ。


 とんとん、とジャンプし身体を温める。


「二度目の竜殺し《ドラゴンスレイヤー》だな」


 洞窟の空洞で俺は〈奈落竜〉と向き合った。


――――――――――――――――――――――――

ここまで息しか使ってない笑

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