第17話 素材集め



 毒沼竜の洞窟の奥地〈奈落エリア〉には俺一人で向かうことにした。


 ラビとタキナでは瘴気に耐えられないからだ。


 代わりにタキナから約束を取り付けられた。


『めぼしい者はとって帰ってきてね。私が錬金で武器にしてあげる』


 タキナは〈錬金スキル〉を持つドワーフスミス(鍛冶屋)だ。


 ドワーフと言っても、金髪のギャルにしか俺には見えないが。


 手の中のリングをみやる。でかける時に持たされたものだ。


『これは?』


『帰還のおまもり〈リタンリング〉だよ。帰り道がうっすらわかるようになる。合理的でしょ?』


 おまもりといいつつ効用のあるリングだった。タキナに感謝しつつ、俺は奈落へと出稼ぎに向かう。


 毒沼竜の洞窟へ到着。


 この洞窟のさらに深層に向かえば、先日の断念した【先】を見ることができる。


「人の足跡があるな。臭いもだ」


 俺は呼吸能力で空間のアトモスフィア〈雰囲気〉を察する。



――【経験値を0獲得しました】



 自動経験値取得は作動しているが、ただの空気では経験値にならないらしい。


(毒沼竜を相手にしたから強制的に進化できたようだが。一旦停滞期かな)


 あのときは本当に死に物狂いだった。


 イバラを守りたかったから、無我夢中で身体が動いたのだ。


 イバラはどうしているだろう。


 今頃は毒島と、あのときのように……。


「うぐぅ……。くぅぅ……」


 胸が苦しくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。畜生。畜生。何で、何でなんだよ……」


 一人になるべきではなかった。一人になると嫌なことを考えてしまう。


(タキナやラビの元に返りたい。でも今は……)


 俺は覚悟する。


 復讐をすると決めたんだ。


 毒島が俺のあられもないレッテルを街に流布したおかげで〈リスタルの街〉では居場所がなくなった。


 お先は真っ暗だ。


 この奈落のようにな。


 ならばあいつらにもこの奈落を与えてやる。


(俺にはちょうどいい)


 八方塞がりだがタキナとの出会いもあり、か細い糸のような希望が見えてきた。


 瘴気が強くなる。



――【経験値が1入りました】



 レベルはもう51だから、たかが経験値1ではレベルアップは見込めない。


「それでも積み重ねてやる」


 洞窟の奥地、タキナと出会った岩の場所にまで来た。


「やはり。人の気配があるな」


 俺が破壊した岩の向こうでは人の気配がする。足跡はうっすらとしかみえないが呼吸の流れを感じるのだ。


 躊躇わずに進む。


 巨大蝙蝠が突っ込んでくるが俺は手刀で吹き飛ばす!


『キィキィ!』

『ギャン!』

『キャオン!』


 斬殺はしなかった。蝙蝠の素材はすでに持っている。


 無益な殺生はしない。


 だが殺すべき人間が眼の前に現れたら容赦はしない。


(物騒な思考になったな)


 ソウルワールドに転生したときは第二の人生が始まるとワクワクしていた。


 だが突きつけられたのは野生のままの世界だ。


(なら答えは簡単だろ。暴力での解決だって必要だ)


 学校生活をくぐり抜けてきたからわかる。


 友達と楽しい時間を過ごすこともあったけど、どうしようもない暴力や悪意が必要なときもあるんだ。


 ざく、ざくと洞窟を進んでいく。


 洞窟の奥には燭台魔法がみえた。


 人の群れだ。奈落の鉱山資源目当てに集まってきたのだろう


 そこにいたのは……。


「ぁん? 誰だよてめーは!」


 浅黒い金髪の細身の男。


 毒島の配下、爪田だった。


「あれ? もしかしてぇ。ちみは……」


 俺に気づいたようで、奇妙な声をあげる。


「肺活量君じゃねえのぉ? どしたん? 元気してたぁ?」


 絶妙にムカツク返事が来た。


「ああ。おかげさまで」


 俺は皮肉で返す。


「おーおー元気だったのか? マジかよぉ」


「皮肉を言ったつもりなんだが?」


 敬語は使わない。


 もうパーティだとか年上だとかは関係ないからな。


 現実では敬語を使って礼節を重んじていたが、敬語はそもそも心の枷だ。


 味方や尊敬できる先輩には敬語を使うが、もう俺にとってこいつらはただの敵。


 敵に丁寧に接する馬鹿がどこにいるんだ?


「おいおいおいおい! 一丁前の口聞くじゃんかよぉ。自分の状況わかってる?」


 爪田達は10人ほどパーティで奈落の探索をしていたようだった。


「瘴気は大丈夫なのか?」


 俺は疑問をぶつけてみる。


「あーん? なーんか毒沼竜を撃破してから瘴気が減ってるみたいだぜ。だから俺らはここにいんだよ」


 瘴気を吸ったのは、俺のおかげだ。

 もちろん表だっては言わない。


 そもそも爪田は俺が毒沼竜を倒したことすら知らないだろう。


「どこに行こうとしてんの?」


 俺が先に行こうとすると、爪田とその配下が下卑た笑いで立ちはだかった。


「ここは俺らの管轄なわけよ」


「違うだろ。毒島に派遣されて今日から開拓し、領土にしようとしている。まだギルドに開拓登録はされていない」


「……これからするからいーんだよ。何をわかっちゃった気になってんの」


 タキナから聞いた話ではダンジョンの開拓はパーティがギルドに申請すれば『登録』がされることになっている。


 魔物や毒が蔓延るダンジョンでは『開拓』などできない。


 この『奈落』も例外ではなく、毒島は部下を使って開拓しようとしていたようだ。


『ゲホッ、ゴホォッ』


 爪田の配下が吐血していた。


 いわんこっちゃない。弱い奴から毒に負けて死んでいくんだ。


「部下が血を吐いてるぜ」


「ぁん? 死ぬ奴が悪いんだよ」


 爪田の部下が『すみません。帰らせて貰っても?』と申請する。


「うーし。わかったよ。じゃあ事故死にしよっか?」

「え?」


 爪田の指示で、9人の部下が吐血した部下に剣を突き立てた。


『ぐっはぁぁあ!』


「雑魚はいらねーのよ。労災申請とかブラックギルド認定とかされたら嫌だからね。どうせここは深層だから現世への配信もされてない。死んでくれたほうが俺等も同情を貰えるってわけよ」


 吐血していた男は刺殺され、死体になった。


「崖があったから捨てとけ」


 統率された動きで、死体が片付けられていく。


「つーわけで肺活量君。君も邪魔なんだわ。これでも俺は悪いことしたと思ってるのよ? まあ毒島さんの権力はうなぎ登りだからね。もみ消せるさ」


 俺は9人に囲まれてしまう。


 やるしか無いようだ。


 でもよかった。


 俺の中でいつも常駐していた〈良心の呵責〉とかいう奴が消え失せていたからだ。








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