第7話 後宮へ

 エイアリステア宮殿は、東宮と西宮が広大な石畳の広場を中央に囲い込むようにして建っている。

 白と金を基調にした壮麗な造りはノイスール国の行政の拠点であり、女王の家族が生活の場とする王宮だ。


 今はテオ大公が一人で寝起きをしている後宮は、幾重にも折れ曲がる廊下を北西に向かった先に設けられ、この世のあらゆる喧噪から切り離された楽園でもある。

 ダフネの軍港が受けた被害の概要が掴めると、ゲオルグとエーミルはそれぞれ身なりを整えて、テオ大公に報告するべく、足を速めて宮殿の中を進み行く。


 大公は軍港への奇襲攻撃を知りながら、謁見の間がある王宮ではなく、後宮に引っ込んだまま出て来ない。

 

 宮殿は内廷に近づくほど大理石の廊下の幅は狭くなり、天井も低くなる。


 それでも豊かな樹木や噴水で構成された夜の庭に面した窓は、天井に届くほど高かった。

 窓と窓の間の柱に青銅製の燭台が等間隔で備えつけられ、太いロウソクに点された火が、二人が前を通るたびにたなびいた。


 片側の壁面には漆喰の文様に金箔が貼られ、文様が蝋燭の当たり具合で眩くきらめく。壁面には金縁の巨大な鏡が等間隔ではめ込まれ、廊下を豪華に演出していた。

 いつも快活で可憐な笑顔で後宮内を闊歩していた鏡の中の残影が、ゲオルグの脳裏に浮かんでいた。

 切なく、そして鮮明に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る