第29話 キリーの戦略(2)

 キリーは不敵な笑みを浮かべてアマン首相に説明を始めた。


「一番の目的は、敵の内情を詳しく観察することです。リリアムの中にはまだ誰も入ったことがありません。ベータの組織やリリアムの中を把握します。細かい対応は私に任せていただければ鍵となるあらゆる情報を入手いたします」


「むう」アナンは唸った。


「次に、リーダである曲者のジーンですが、彼女を油断させましょう。彼女自身は本来戦いを望んでおりません。首相自ら出向いて和平交渉を切り出すことで、首相への印象は確実に変わります。多少安心するでしょう。油断させたところで何週間か後に強い攻撃をしかけましょう。効果的です」


「なるほど……」


「それから、これは他の中立国へのアピールにもなります。X国は一方的に戦争している訳でないことを示す象徴的なイベントになります。これをご覧ください」


 キリーは交渉のアジェンダと和平案を首相に提示した。和平案はベータが到底合意できない内容になっている。しかも万一ベータがそれに合意した場合は、それはそれでアマンが満足できるX国よりの案だった。


「もちろん、決裂するシナリオ一本になります」


「よし、概要は分かった。関係者とよく議論してくれ。そうだ、私の安全は大丈夫だろうな? やつらサイコキネシスで私の首をへし折ったりしないだろうな」


 キリーは心の中で大笑いした。


(それ、最高だな。裏シナリオに入れておこう)


 そして至って真面目な顔でアマンをなだめた。


「首相、そのような事は絶対ありません。念力に対しては色々な防御策があります。さらに最悪、首相に傷一つついただけでも、我が国はリリアムに総攻撃を仕掛けます。ベータもバカでは無いので、そのような展開は必ず避けます」


「そうか、なら良かった。じゃあキリー、任せたぞ」


 キリーは笑いをこらえながら首相執務室を後にした。


(こいつに国の運命を委ねているX国民も可哀そうだな)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る