魔王は2度転生する

つきみなも

第1話 プロローグ

 ここは魔族が統治する地"ノルデンブルグ"。

 人間から忌み嫌われ都から追い出された魔物の住むこの地は、暫くの安静に浸っていた。

 しかし津波の前の引き潮や嵐の前の静かな森のように、安静というのは混乱の準備期間であり、魔族のトップである魔族議会では妙な噂が囁かれるようになっていた。


「民主主義は駄作?王政国家か社会主義に変えろだって?」

 角の生えた金髪の大柄で若い男。厳かな雰囲気を纏う濃紫色のローブ。その間からちらつく性格が丸見えな寝間着。

 片手には服に似合わない安物のグラスに安物の酒が注がれていた。

 彼は魔王……と、呼ばれ畏れられる筈の男、ルードレン・ルードヴィヒである。


「はい、そのような意見を魔族議会から多く頂いております。」


 隣で王の杖を抱えているこの薄目の男は側近のエルヴィッヒ・グランドルだ。元貴族で魔法の才があったにも関わらず派閥争いに敗れたばかりに、地位を失い辺境で暮らしていたところを魔王に拾われた、運があるのかないのかよく分からない……そんな奴である。


営利主義クソ野郎利権野郎愚か者しか議会にはいないのか。民主主義は発展性の高い政治体制だ。革命も起きづらければ技術革新にも繋がる。……保守派の意見とかないのか?」

「現在有給消化にあたっています。」

「ちまちま消費しとけとあれ程言ったのに……」

「いかが返答なさいますか?」

いずれ貴様らの懐も温まる故、しばし待て。とでも言っておいてくれ。」

「承りました。」


 ルードレンは深い溜め息をついた。

 議会の言葉は、秀才な頭脳をもつルードレンに「我が金儲けの邪魔だ」と言っているようなもので、ルードレン自身もそれを理解していた。

 利権の権化な老人ばかり集まる議会では『』で『』な彼を理解する者は少なく、目の上についたニキビ付きのたんこぶ扱いするのが8割とかなり辛辣であった。


 根回しした根が腐っていやしないかと、テーブルに置かれた着替えを遠目に欠伸あくびをつく、昼時であった。

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魔王は2度転生する つきみなも @nekodaruma0218

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