第11話:無自覚、本領発揮

 後ろには壁。目の前には氷室さん。

 …そして、“壁ドン”!!!!


「こ、これが壁ドン…!これが追い詰められた受けの気持ち…!!」

「…先生。いい加減にしてください。私怒ってるんですよ?」

「待ってください。もう少し壁ドンを堪能したくて…。へえ、実際はこんな距離感なのね…。」

「…先生。前回からのムードが台無しです。どうしてくれるんですか。」

「ダメですよ!そんなメタ発言!!」

「いや、あなたの発言も展開的にダメでしょう。」


 閑話休題。とにかく、今の状況は私にとって絶望的だった。もうこうなったら、腹を括るしかない。


「氷室さん。」

「はい。」

「氷室さんの気持ちも考えず、ペタペタ触ってしまってすみませんでした。」

「……。」

「氷室さんが怒るのもごもっともです。代わりと言ってはなんですが…。」

「?」

「どうぞ!!氷室さんも思う存分満足するまで触ってください!!」

「はああああ???」



 背に腹は変えられない。これで氷室さんの気が済むなら…。



「馬鹿なんですか?!あなたは!!この馬鹿!!!!」

「へ?」


 覚悟を決めて切り出したのに。そんなに馬鹿って言わなくてもいいじゃないか。

 あれ、この前も馬鹿って言われた気が…。あ、それは思い出したくない記憶の扉だから開けるのはやめておこう。私は記憶にそっと蓋をした。


「男にそんなセリフ言うなんて…!男を舐めすぎです!私じゃなかったら、食べられてますよ!」

「…食べられる?」

「ええ、蓮なんて特に盛りのついたオオカミなので、瞬殺です。」


 酷い言いようである。氷室さんは葉月さんに何か恨みでもあるのだろうか。



「…とにかく。無自覚に男を誘惑するのはやめろってことです。」

「誘惑なんてしてません!私がいつそんなことしたって言うんですか…!」


 思わず反論すると、氷室さんは目を丸くする。


「…本気で言ってるんですか?はあ〜…、鈍感で危機感がないとは思ってましたが、まさかここまでとは…。」


 氷室さんはやれやれといった様子で首を横に振る。

 …とても失礼なことを言われている気がする。


「いいですか?今のセリフ、絶対に他の男に言うんじゃありませんよ。これは担当編集からの助言です。」

「…はい、わかりました…。」

「…わかったならいいです。撮影に戻りますよ。」

 そう言って氷室さんは私の髪をくしゃっと触ると、撮影のセットがしてある部屋に入っていった。




 ◇◇◇


 結局その後撮影は再開されたのだが。



「ポリスメ〜ン!こっち向いて〜!」

「逮捕しちゃうぞ♡って言って〜!サービス足んねえぞ〜!」


 外野が増えていた。



「氷室さん、もう少し穏やかな表情で…。このままじゃ、おまわりさんなのに悪人みたいです。」

「ほら、カメラマン困らせちゃダメだよ、スマイルスマイル〜!」

「あ、なんなら俺変わろうか?撮影慣れてるし。」



 お出かけから帰ってきた葉月さんと、仕事終わりの朝比奈さんに見つかり、氷室さんの撮影は賑わっていた。

 一方氷室さんはというと、二人の冷やかしに眉間に皺を寄せ、任侠さながらの表情で被写体となっていた。



「みのりちゃんにあーんなことしておいて、コスプレで許されるなんて、よかったね〜恭弥くん。」

「未遂だったからよかったものの、酔った勢いでなんて、男として最悪だからなあ〜。いくら恭弥くんでもどうなってたかわからないよ〜。」

「ぐっ…。」


 アハハ、と笑顔の葉月さんと朝比奈さん。ぐうの音も出ない氷室さん。

 ここにうさくんがいなくて良かったかもしれない。トリプルパンチはいくらなんでも氷室さんが可哀想だ。



 こうして、氷室さんのコスプレ大会は無事に終了し、私は十分すぎる参考資料を手に入れることができた。今度は他の誰かにも着てもらいたいな…そんな邪心を抱きながら、上機嫌で眠りについたのだった。







「…今、悪寒が…。」

「え〜?大丈夫か?今日はあったかくして寝なよ?蓮くん。」

「俺も寒気する…。」

「うさも?二人とも風邪か〜?ほら、早く部屋戻って寝な!」

「「(やっぱりお母さんだ……。)」」















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BL作家に恋愛フラグが立ちました~無自覚美女は今日もイケメンたちのラブバトルには気づかない~ 咲良樹凛 @skrgxx

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