第6話:うさぎとオモチャ
どうしてこんなことになったのか…。
私は目の前で美味しそうに砂糖の塊を頬張る草食動物——否、イケメンを眺めていた。
「美味しい…?」
「ん〜、
「そっか、いっぱいお食べ…。」
「わーい。」
私は今、宇佐見くんとケーキバイキングに来ている。
「俺と付き合って」なんて言うから身構えちゃったけど、年下イケメンが美味しそうに甘いもの食べてるの見れるの役得かも。でも…。
「交換条件、こんなことでよかったの?」
私は疑問に思い、宇佐見くんに尋ねる。
「糖分は正義。甘いもの食べると幸せ。」
「…そっか。糖尿病には気をつけてね…。」
テーブルにたくさん並べられた色とりどりのケーキを順に平らげる宇佐見くんは、表情はそこまで変わらないが本当に幸せそうだ。あの第一印象があまり良くなかった青年とは思えない。
「さあて。本題に入ろうかな。」
ごくん、と咀嚼していたケーキを飲み込むと宇佐見くんはじっとこちらを見つめてくる。
「…本題?」
「うん。俺のオモチャになってくれない?」
……はい??
聞き間違いかな??
「ごめん、宇佐見くん。今急に言葉が通じなくなって…。日本語で話してくれないかな?」
「日本語しか話してないけど…。まあいいや。おねーさん、今日から俺のオモチャね。」
「…えっと??」
私は何を言われている…?これ私の妄想の世界だっけ…?
オモチャってたまに漫画とかに出てくる、ちょっとえっちな意味のやつ…?
「今日から俺のオモチャな、逆らうとどうなるか分かるよな?」みたいな悪いキャラが脅しに使うようなあれ…?嫌がる受けが涙を浮かべて羞恥に耐えながら言いなりになる描写もなかなか……。
「妄想中悪いけど全部声に出てるから。ていうかそういう意味じゃないし。」
「えっ?じゃあどういう意味…?」
私の心が汚れすぎてしまっているせいか、仕事柄のせいかわからないが、もうそういう大人な意味にしか聞こえない。
「俺さ、今までずっと人にあんまり興味なくて。ずっと退屈だなって思いながら生きてきたんだよね。」
「うん…。」
「仕事もフリーでプログラマーやってるからストレスもないし。糖分摂取してる時が幸せだな〜くらいで。」
器用な人なんだろう。天才肌だから、なんでも人より簡単に卒なくこなしてしまうのかもしれない。それ故に、夢中になれるものに出会えなかったのかも。
「だけど。アンタに興味が湧いたんだよね。」
「え?私?」
「うん。今まで人にこんな感情持ったことないからわかんなくて。アンタ、俺になんかした?」
真面目な顔で聞かれて面食らう。もちろん私は何もしていない。
「なんでアンタに興味持ったのか知りたくて。だからこれは好奇心なんだけど。俺の退屈凌ぎのオモチャとして、俺のわがままに付き合ってよ。」
宇佐見くんはなぜか私に興味を持ってくれたらしい。理由は私にもわからないが、宇佐見くんの心情に何か動きがあったということだろう。これは彼にとっていい兆しな気もする。
「私でよければ、付き合うよ。原稿の息抜きにもなるし。また甘いもの食べに行ったりしよっか。」
そう言って微笑むと、宇佐見くんも柔らかく笑ってくれた。
「じゃあ、お礼にアンタにネタでも提供しよっかな。」
「ネタ?!」
「うん。俺自身はネタにはならないかもだけど、うちのシェアハウス、なかなかのイケメン揃いでしょ?あの3人ともそれなりに過ごしてきたから、情報とかは教えられるし。お互いWin-Winの関係ってやつでいこうよ。」
それは願ってもない申し出だ。少しでも原稿に協力的な人がいてくれるとありがたい。葉月さんはBLにされるの抵抗あったみたいだし、しばらくは距離を取られる可能性もある。
「宇佐見くん、ありがとう。とっても助かる!」
「…うさ。」
「え?」
「みんなそう呼んでるでしょ?アンタも特別にそう呼んでもいいよ。」
…なんというか。凄く母性本能がくすぐられる子だ。
こういうタイプのキャラも原稿に登場させようか。
「うさくん。ありがとう。」
「……ん。」
少し照れくさそうに目線を逸らしたうさくんは、いつもより年相応の青年に見えた。
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