第42話 シリュウ島

 夜というよりまだ夕暮れどき、肉体を抜け出す。


『ノーマンは大丈夫? かじられてない?』

『だいしょーぶぷゆ!』


『じゃあまず、騎士学校の保健室いこう』


 監視中フェネカのところへ移動。

 男の子は、ベッドに繋がれて眠っている。

 警備員が壁際にいるが、先生はもういない。


『怪しい人は接触してないんだよね?』

『うむ。いちばん怪しいのがカレンじゃったの』


 カレン先生は、なぜ『聖者』を攻撃したのかなど聞き取り、今後近づくなと暗示をかけていったそう。


 今日、ギーゼラは部活に来なかった。ここへ来てカレン先生に遭遇し、ついて行ったらしい。


 俺がなにもしなくてもふたりが解決しそうな感じ。けど、念の為。


浄化ピュリフィケーション


 ……あれ? やけに魔力を使った。

 シリュウは何千年も募らせたストレスがあったみたいだけど、この子は11歳。


『……あ、カレン先生の暗示解除しちゃったかな? それにしてもおかしい気がするんだけど。そもそも、入学進学できたまっとうな子が突然殺人未遂もおかしいよね……』

『みる』


 フヨフヨの触手がぷすり。

 なんだか疑問の波動が出ている。


『……フヨフヨ? どう?』

『……剣聖になりたかった。成績が上の子、みんな恨んで呪ってた』


『そんなことで殺そうとする? どう考えても逆効果だよね……』

『……わかんない。変』


『カレン先生以外に暗示かけたりした人いない?』

『記憶にない。カレン先生の暗示も気づいてない』


 ……そうか、本人の記憶にないから読み取れないってことだ。

 たとえば眠っている間になにかされたとして、当人が気づかなければ当然記憶に残らない。


『変っていうのは、違和感があるってことだよね?』

『うん』


 知らないうちになにかされてるとか怖いな。


『……念の為カレン先生とギーゼラも浄化しておこう』

『養護教諭と担任と理事もじゃ。あとそこの警備員かの』

浄化ピュリフィケーション


 警備員さんは、ほとんど手応えなし。ポジティブ警備員さんだ。


 殺人未遂犯となった男の子は、すでに退学が決まっている。未成年なので処刑はない。それを理事が告げに来たそう。


 次いこう。

 養護教諭と担任はまだ職員室にいた。どうしてあの子は思いつめてしまったのかと、深刻そうに話している。

 浄化すると、どちらも驚いたようにキョロキョロ。ふっふっふ。見えまい。


 魔力消費量に違和感を感じなかったし、フヨフヨもぷすっと見て違和感を感じなかったらしいので次。


 フヨフヨの案内で移動すると、カレン先生は男の子の家宅捜索を行っていた。家宅というか、寮の部屋だ。

 すでにギーゼラがいないな。


 カレン先生を浄化すると、目を少し見開いて固まり、すぐにゆっくりとあたりを見回す。


 カレン先生も異常なし。もしかして杞憂だったかな?

 フヨフヨの触手がぷすっと。


『ユイエルが回復してくれたと思ってる』

『え!? 見えないのに?』


『遠くから回復できると思ったみたい。酔っぱらいの再生もユイエルだと確信した』

『……まじか。うかつだったかも? カレン先生とアンナさんまじ怖い』


 なんでも俺に結び付けないで。やったの俺だけど。


『どうということはないじゃろ。害はない』

『うん。ユイエルに尽くせば国のためになると思ってる』


 尽くさないで。俺がダメになっちゃう。すぐ流されるんだからね。


 男の子の退学準備は着々と進んでいるみたい。警備員たちが荷物をまとめはじめた。


 フヨフヨによるとカレン先生は理事のところへ行くとのことなのでついていく。


 理事の執務室みたいなところについた。

 カレン先生は、黒幕は見当たらないと報告。これから王城にも行くらしい。王城にはフヨフヨの眷属がいるので任せよう。

 なんか今日はみんな残業だな……。


 あの殺人未遂現場に俺が居合わせたのも関係しているかも。ついでにこっちにも殺意が来たし。とはいっても授業中のできごとだ。再生も必要だったから、いなければよかったとは思わない。

 では理事も――。


浄化ピュリフィケーション


 …………すんごい魔力つかったな?


『フヨフヨ、理事もチェックして』


 肯定の波動。触手が理事にささる。


『……ない。変な記憶ない。でも違和感ある。あと、ユイエルの子どもヴァイス家に欲しい』


 ……いや、後半の情報は今いらない。たしかに気になるけど。

 黒幕かもと疑ったけど、違うみたい。


『理事も誰かに闇魔法使われてると思う?』

『……うん。たぶん』


 最後はギーゼラ。カレン先生と事情聴取みたいなことをして回ったあと寮へもどったみたい。遅い晩御飯中。

 違和感はなし。


 うーん。わからない。

 どっかにラスボスがいて、そいつが操ってる的なのがいちばんありそう。ゲーム脳すぎるかもだけど。

 フヨフヨから疑問の波動。


『まさか復活したかって言ってる』

『うん? 誰が?』


『〈聖剣〉さんが、とある国を滅ぼし封印された闇魔法使いがいるって言ってる』

『スーパー怪しい。もうそいつ犯人確定でいいレベル。どこに封印されてるの?』


〈聖剣〉さんが知ってるってとこがもう答えっぽい。

 フヨフヨの触手が、ギーゼラの腰にある〈聖剣〉さんにぷすっと。


『マチュピチュ』

『……え? シリュウ島?』


『うん。滅んだ国ごと封印された。小高いとこに』

『行ってみる? 〈聖剣〉さんじゃないと倒せない縛りある?』


『あるかもって。復活したらアンデッドだから普通の武器は通用しないって』

『……それは浄化でいけたりしない?』


『……いけそう』

『よし、行こうか』


 シリュウのお家に、そんな悪いアンデッドな隣人さんはいらない。


 ぴゅんとやってきましたシリュウ島。

 たしかに少し小高いところがある。崩れた建物は、もとは神殿と言われればそうかもしれないって程度のボロボロ具合。


『地下かな?』


 島の中央に近いので、島の厚みはいちばんある位置かも。

 ちなみに、コンクリートのスロープやワープ遺物は北の端に近い位置。


 とりあえず地下に突撃。空洞っぽい。


ライト


 祭壇?

 中央に人が入れそうなサイズの黒っぽいものがあり、燭台らしきものが両サイドに2本倒れている。いかにもなにか出そうな雰囲気。

 黒っぽいものは、なんだか頭のもげたアイアンメイデンに見えるんだけど。


 フヨフヨから警戒の波動。


『いた』


 カラカラと音を立て、ボロボロの黒いローブを着た骸骨がアイアンメイデンから出てきた。

 開きもせずに、すり抜けて。


 そして黒いモヤがこっちに飛んでくる。

 あわてて避ける。

 アンデッドってほぼ魂じゃん。俺たち見えちゃってます。

 もしかしてアイアンメイデンの中にご遺体?


 かわいくないし、犯罪者らしいし、テイムはしたくない。

 両手を組む。


『成仏してください! 浄化ピュリフィケーション!』


 ぐんと魔力をもっていかれる感覚。

 ふおおおみたいな断末魔の声。

 そして、コロン、チャリンとなにかを残し、消えていった。

 ドクンと高揚感。


『え、加護あがった……』

『なんで妾を見るんじゃ。悪霊ではないぞ』


『や、うん。フェネカに浄化使うとまずい?』

『悪霊ではないと言うておるじゃろ。消えぬわ』


 ごめん、ちょっと差がわかんなかった。


『消えないなら安心。ドロップはなにかな?』

『……』


 金貨。

 あと、紫の宝石だ。

 形が〈聖剣〉さんの柄にあるやつにそっくり。なんで骸骨からドロップしたのか完全に謎だけど、まあいいか。

 再生したからもうついてるよ。


『宝物庫に入れとこう』

『ふむ。あっさり片付いたの』


 それから、何往復もしてシリュウの宝を宝物庫へ移動した。

 マジックバッグからの出し入れはシリュウに頼んだ。ほんと器用に無属性魔法を使う。


 そして丑三つ時。

 シリュウのねぐら前に全員集合。


『ちょうど曇ってる。いまならバレないかな?』

『ああ、主よ……我は飛ぶぞ』


 なんだか、歓喜にまざって不安な波動を出すシリュウ。久々だからかな?


 洞穴に入り、シリュウの頭にくっつく。

 フヨフヨ、フェネカ、ディープは背に。フヨフヨにノーマンが、フェネカにヒタチがひっついている。


回復ヒール


 以前は心臓しか回復しなかった気がするので、翼を回復してみる。

 かなり魔力を使った。筋力が落ちていたみたい。


『主、感謝する!』


 少し翼を広げたシリュウは、ふわっとなめらかに風魔法で洞穴をでた。

 音もほとんどしない。滑空しているみたい。


 急上昇。

 真上にくるくると昇る。ひゅー楽しい!

 振り返ると、大陸の全貌が見れた。


 シリュウは、大きく翼を広げる。

 そして東へ。


『速いなー!』

『なの!』

『ぷゆ!』


 着陸も静か。

 お引越し完了!


 今日はまったり遊ぼうか。

 明日からダンジョン制覇トライだ。加護レベルはどこまで上がるかな?

 地下道を整備して、別荘も建てたいな。

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